魚鱗癬
2023/12/07
自分は皮膚が弱い。
小学校の頃に発症した水虫をはじめとして、思い起こせばこれまでもその時々において、体調不良になると顔面や掌の肌荒れを起こしてきた。
2020年は体調不良から右下腿にひどい皮膚荒れを起こして、一部瘻孔状態にもなった。
2021年には年初から帯状疱疹を発症した。
東洋医学では皮膚と肺は同じ系列のものとみられており、幼少時に患った肋膜炎のことなども考え合わせると、自分は肺体質と言えるのかもしれない。
皮膚疾患は例えうつるものではないにしろ、見た目のインパクトから誤解と偏見が生まれやすい疾患である。
だからこそ、正しい知識を身に着けることが大切だと思う。
今回取り上げる魚鱗癬は、全身の皮膚が乾燥してうろこ状になり、フケが剥がれ落ちたりする状態を言う。
これには先天性(遺伝)のものもあれば、病気や薬によって発症する後天性のものもある。
つまり、魚鱗癬自体が疾患の本体ではないということ。
先天性魚鱗癬の場合は、原因遺伝子、症状、罹患部位(皮膚のみか全身症状か)、などによってかなり種類が異なり、主なものだけでも九つあり、更にその中でも細分化される。
そのうちのいくつかを見てみよう。
尋常性魚鱗癬
先天性魚鱗癬で最も頻度の高いのは尋常性魚鱗癬である。
ちなみに、「尋常性」とは平たく言えば「普通にみられ、ありふれているさま」という意味で、特に皮膚疾患に関してよく用いられ、「尋常性乾癬」「尋常性疣贅(イボ)」「尋常性痤瘡(ざそう)」などとよく使われる。
症状の重さ等に関わらず、広く一般的に発症する状態であることを示している。
後述する魚鱗癬との違いが著しい。
尋常性魚鱗癬はフィラグリン遺伝子の変異によって発症し、生まれたときは症状がないが、乳幼児期になってから発症する。
ほぼ全身の皮膚が極度に乾燥し、特に四肢の伸側と下腿の前面に強く出る。
肘窩・膝窩・外陰部には皮疹が生じない。
皮膚症状は夏に軽快し、冬に増悪。
汗がほとんど出ない場合が多いため、体温調節が難しく、夏場は熱中症になりやすく、冬は角化による亀裂によって歩行に支障をきたす場合もある。
また、成人になると自然軽快する場合もある。
アトピー性皮膚炎を合併することがある。
手足の裏の皮膚紋が増強するなどの特徴もある。
治療はサリチル酸ワセリン・尿素軟膏・ビタミンA軟膏を使用する。
難治性であり、鮫肌とは全く別のものである。
軽症例が多く、それを「乾燥肌」と決めつけてしまい、正しく診断できていないケースもあるのだとか。
400人に1人とされているが、ある専門医の話では、いわゆる「乾燥肌」として10人に1人ぐらいの割合でいるのでないかともいわれている。
「魚鱗癬」と聞くと、何やらまがまがしいイメージを持たれるかもしれないが、中には「乾燥肌」と思われているものもあり、決して珍しい症状ではないということだ。
表皮融解性魚鱗癬(改定前の水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症)
10万人に1人の割合。
全身が赤くなり、古い皮膚が厚いうろこ状に角化してしまう。
硬くてゴワゴワした水疱を伴うのが特徴。
ウィルスなどから身体を守る皮膚機能の低下で、感染症にかかりやすく、体温調節も困難である。
道化師様魚鱗癬
約30万人に1人と言われるが、正確な統計はない(50万人~100万人に1人という説も)。
生まれた時、菱形にめくれた皮膚が道化師の衣装を連想させたため、その名がついた。
比較的近年まで脱水、感染症、呼吸困難などにより生後数日以内に死亡する重篤な遺伝病であったが、病気の解明と治療法の模索が多少なりとも進んできており、死亡率が減ってきてはいるとのこと。
上述の特徴的な皮膚の状態のほか、眼瞼、口唇がめくれ上がり、耳介の変形も見られる。
葉状魚鱗癬
粗大で,暗褐色,板状,葉状の大きな鱗屑が全身に広範囲にみられるが,発赤や潮紅(紅皮症)が目立たないものをいう。
膜様の厚い角化物質(コロジオン膜)に覆われて出生することがあり(コロジオン児と呼ばれる)、この膜は 1~2日以内に自然脱落する。
本症は臨床的に類似したものを集めた疾患概念であり、遺伝的には多様なものを含む。
魚鱗癬症候群
まれな遺伝性疾患を総称してこのように言う。
ある文献では比較的頻度の高いものだけでも六つの疾患名が挙げられており、絶対数は少なくとも、様々な種類の魚鱗癬が存在することが分かる。
これらは単に皮膚の異常だけでなく、疾患によってそれぞれ異なるが成長障害や精神遅滞、痙性四肢麻痺、角膜炎、網膜色素変性、聴覚障害、脱毛、手足の裏の角化、肝障害、小脳性運動失調、多発性神経炎、軟骨形成異常など、それぞれ多様な症状を呈する。
後天性魚鱗癬
ホジキン病、菌状息肉症、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍、ビタミン欠乏症などの栄養障害、透析患者、甲状腺機能低下などで生じ、遺伝はしない。
ニコチン酸等の薬剤で発症する場合もある。
魚鱗癬と呼ばれるものの中からいくつか取り上げてみた。
あるサイトでは、やはり見た目のそのインパクトから無理解と偏見が生じやすいとされており、教育現場、職場、行政に対し、以下の点を提唱しておられた。
【教育現場・職場への提唱】
●魚鱗癬は、クラスメートはもちろん、周囲の人には伝染らない。
●とくに夏場の体温調整は苦手で、熱中症になるリスクが高い。
地域や場所によってクーラーが必要。
●この病気は知能の発育には、直接的には影響しない。
●患者は皮膚のバリアが弱く、細菌感染などが起こりやすく、その予防のため保湿クリームを1日に数回塗る必要がある。
そのための時間と場所を与えて欲しい。
【行政「理解」への提唱】
●患者の中には、歩くと足の裏や靴が当たる箇所などに水疱ができて、移動に不自由する。
四肢に合併症が発生し、移動は車椅子になるケースも多い。
皮膚の病気だから軽症と決めつけないで、「身障者手帳」の交付がスムーズにいくようにして欲しい。
●医療機関が請求する「レセプト(診療報酬明細書)」のチェックで、保湿クリームなどの薬剤量が多い、としてはねつけられることがある。
魚鱗癬という病気について無理解からくるケースがほとんどで、必要な薬の量であることを、チェックする側も周知徹底して欲しい。
専門医であってもなかなか遭遇することの少ない疾患なだけに、実態がなかなか伝わりにくいのだろう。
もし会う機会が訪れた時には、見た目に惑わせられずに、正しい知識と深い理解で相対したいものである。
道化師様魚鱗癬の子を持つ親の手記が「産まれてすぐピエロと呼ばれた息子」という著書名で出版されている。
病気への理解を深めてみたいという方はぜひ読んでみてはいかがだろうか。
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