リーキーガット症候群
2025/03/15
腸の壁には食べ物の中に含まれている毒素や微生物が体内へ侵入することを防ぐバリア機能がある。
様々な理由でそのバリア機能が低下し、腸の透過性が高まった状態をリーキーガット(Leaky:漏れやすい、Gut:腸)症候群という。
腸から体内へと漏れ出した異物が全身を駆け巡り、様々な全身症状を引き起こすのである。
腸壁の表面は粘膜でできており、その上を粘液が覆っている。
粘膜の細胞や粘液中の腸内細菌の働きによって栄養素や水分は吸収されるけれども、毒素や微生物は通さないという選択的透過性を持っている。
ところがこの粘膜の細胞が破壊され、細胞同士のつながりが弱くなるとか、粘液中の腸内細菌のバランスが崩れると、その選択的透過性が失われ、本来入ってはいけない病原菌や未消化のタンパクが入り込み、炎症やアレルギー、自己免疫反応などを引き起こすという。
実はショック症状や多臓器不全状態の患者さんはこうしたリーキーガットを起こしており、リーキーガットが集中治療室で治療を受けている患者さんの大きな死亡原因になっているという。
もちろん重症度によって現れる症状にはそれぞれ違いがある。
腸の症状に留まるケースでは慢性下痢あるいは便秘、食前食後に関係のない腹部膨満などが見られる。
この辺りは臨床的にもよくみられる症状である。
アレルギー症状としては食物への過敏症、アトピー性皮膚炎などとの関連があるといわれている。
また、炎症症状としては脳、肺、肝、腎、膵の炎症との関連があるとされており、それによって炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、アルコール性肝疾患、肝硬変、急性膵炎、糖尿病、慢性腎疾患、慢性心不全、うつ病、慢性疲労性症候群、線維筋痛症など様々な疾患を引き起こすとされている。
以前、腸内細菌叢(フローラ)の改善で実に様々な疾患が改善されることをお伝えしたが、要はこのリーキーガットが改善することで治癒につながるということなのだろう。
特にうつ病に関しては深い関連が疑われており、気分の揺れやうつ、頭痛や物忘れ、集中力の低下、慢性疲労、などを引き起こすとされている。
自己免疫疾患では関節炎、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎等も見られるという。
他にも片頭痛、喘息、貧血、化学物質過敏症、双極性障害、慢性蕁麻疹、橋本甲状腺炎、認知機能障害、皮膚発疹などもリーキーガットとの関係が疑われている。
もしあなたが、難治性の腸の症状や慢性的アレルギー、頭痛、関節炎、不安感等々抱えているとしたら、本疾患が遠因としてあるのかもしれない。
ただし、現段階ではリーキーガットはまだ研究途中であるとのこと。
原因と対策
「ゾヌリン」というたんぱく質が粘膜の細胞間のつながりを調節しており、このゾヌリンが増えると細胞間の密着結合が緩み、腸の透過性が高まるという。
つまり、ゾヌリンが増えるとリーキーガットになりやすいということだ。
問題はこのゾヌリンというたんぱく質は、グルテンの一種であるグリアジンが腸の細胞に働きかけることで分泌されるということ。
また、腸以外のところにある炎症部位から発せられる炎症物質(歯周病なども)も腸の透過性を高めるという。
そのほか、薬(非ステロイド系抗炎症薬の長期使用)、過剰な飲酒、睡眠不足(健康な腸内細菌の分布不良を起こす)、腸内悪性細菌、ストレス、喫煙、真菌の増殖なども透過性を高める要因となる。
それら悪影響を与えるものの除去や全身の炎症症状の緩和、グルテンフリーの食事などが対策として挙げられる。
検査と診断
リーキーガットは正式な病名として認知されておらず、上述したようにまだ研究段階なので、診断してくれる病院も日本では少ないという。
診断はできないにしても、検査項目としてはゾヌリン試験、真菌検査、腸内フローラ検査、遅発性フードアレルギー検査などで傾向はわかるとのことで、信頼できるかかりつけの病院があれば相談してみるのもいいのではないだろうか。
治 療
まずは食事の改善が必要だが、「何を食べるか」よりも「何を食べないか」からはじめることが重要だという。
具体的には糖類、砂糖・はちみつなどの甘味料、果物、小麦製品(グルテン)、乳製品、加工食品(食品添加物)、イースト食品、カビを含む食品、アルコールをやめることから始めなければならないとのこと。
次に摂取すべき栄養素を列挙すると、ビタミンCおよびE、ケルセチン(抗酸化作用、主に玉ねぎ)、N‐アセチル‐L‐システイン(サプリメント)、亜鉛、グルタミン(サプリメント)、ビタミンA、GLA、DHA、EPA、消化酵素、乳酸菌、食物繊維などがあげられている。
効能はそれぞれ抗酸化作用のあるもの、細胞修復を助けてくれるもの、細胞のエネルギー、腸内細菌のバランスを保ってくれるものなどある。
列挙すれば多くのものが必要な感じがするかもしれないが、それらの多くは和食をバランスよく食べていれば取り込めるものだと思う。
わかめ・海苔などの海藻類、糖質の少ない野菜、こんにゃく、玄米、ハーブやスパイス、納豆・オクラ・メカブなどのネバネバ系、漬物・みそなどの発酵食品、ココナッツオイル、エゴマ油、亜麻仁油、などが勧められている。
症状が重篤な方はサプリメントなども検討してみてもいいかもしれない。
当院ではアトピーやクローン病なども診てきたが、東洋医学的にはそれらは「内にこもる熱」の処理ができないために起こるものととらえて治療して成果もあげている。
治療にはぜひとも鍼灸も併せて行ってみることもお勧めしたい。
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