おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

造語依存型失語症

2025/06/23

多くの人が罹ることを恐れる脳卒中。
手足の麻痺による運動障害。
認知機能の低下による行動障害。
そして、失語症による人とのコミュニケーション障害など発症による障害は多岐にわたる。
今回は失語症について取り上げてみたい。



失語症とは話す、聞く、読む、書く、など言葉によるコミュニケーションが困難になる症状だが、タイプがいくつかある。
大きくは感覚性失語(ウェルニッケ失語)と運動性失語(ブローカ失語)に分けられる。
感覚性失語は発語機能には問題ないが、相手が何を言っているのかを理解することができないので、それに対して適切な応答ができなくなるというもの。
一方、運動性失語は相手の言葉は理解できるものの、言葉の表出がうまくできないために自分の言いたいことを伝えることが困難になるというもの。
そして、感覚性失語と運動性失語が合わさった全失語というパターンもある。



概して感覚性失語は「話せる」ので、一見言葉に障害があるようには見えない。
しかし、適切な応答ができないため、ほどなく患者には言葉が通じていないことに気づく。
会話が成立しないため、場合によっては認知症が疑われたりもする。
しかし、言葉によるコミュニケーションは取りづらいが認知機能が落ちているわけではないので、行動に異常性はない。
患者は会話を理解していないため、何を聞かれても「はい」と答えることもある。
明確な返答なので、つい理解していると思いがちだが、もし患者が本当にこちらの言葉を理解しているかどうかを確認したい場合は真逆のことも併せて聞いてみるとよい。
例えば、帰宅の希望があるかどうかを確認する際、「帰りたい?」との問いに「うん」と答えるかもしれない。
そうしたら「帰りたくない?」と逆のことも聞いてみる。
もし「うん」と答えるようなら残念ながら患者はあなたの質問を理解していないということになる。
話すことはよくできるので「流暢型」失語症とも呼ばれている。



運動性失語の場合は、患者は言いたいことの表出は困難だが、相手の話は理解しているので、指示されたことを行うのは可能である。
口数が減ってしまうので「非流暢型」失語症とも呼ばれる。
問題は患者が何を訴え、何を望んでいるのかを回りが読み取らなければならなくなるということである。
どちらのタイプの失語症においても、コミュニケーションが困難になる状況は非常にストレスフルとなることは言うまでもない。
当然ながら障害の程度には個人差があり、運動性失語であっても時間をかければある程度コミュニケーションが可能な場合もあるし、感覚性失語であっても簡単な内容であれば通じることもある。
失語症をさらに細かく分類すると下記のように分類される。

自発語 復唱 言語理解 文字理解 音読 書字 書き取り
運動性失語 × × × × ×
皮質下性運動失語 × × ×
超皮質性運動失語 ×
感覚性失語 流暢 × × × × 錯書 ×
皮質下性感覚失語 × × ×
超皮質下性感覚失語 錯語 × × 錯語 錯書
伝導失語 錯語 × 錯読 錯書 錯書
全失語 × × × × × × ×
健忘失語 語健忘
同じ感覚性失語や運動性失語でもさらにいくつか分かれているが、これは脳の病巣の部位の違いによる。
本来言語機能をつかさどる脳の領域は左半球側頭葉にあり、そこに病巣がある場合に運動性失語や感覚性失語が発症する。
しかし、それ以外の病巣であっても失語症状が発症する。
病巣の部位によって微妙に症状が異なるため、このように分類されている。



今回の造語依存型失語症というのは感覚性失語の中に含まれ、ジャーゴン失語症とも呼ばれる。
感覚性失語は相手の言葉が理解できないと上述したが、実は自分が発した言葉の意味も理解できなくなる。
通常我々は会話の中において自分の言い間違いを訂正できるのは、自分の発した言葉を自分の耳で聞いて理解し、間違いに気づくことができるからである。
感覚性失語はそれができなくなる。
感覚性失語に見られる錯誤、いわゆる言い間違いにもタイプがある。
例えば「リンゴ」と言おうとして「にんご」などと音節の一部を言い間違える場合は音韻性錯誤という。
一方、「イヌ」と言おうとして「ネコ」とか「とけい」などと言ってしまう場合は言葉そのものが違うことから語性錯誤という。
また、「イヌ」と「ネコ」では動物であることや、両者ともペットとして身近なものなど共通する意味関連性のある言葉なのでこの場合は意味性錯語という。
他方「イヌ」を「とけい」と言ってしまう場合は全く違ったカテゴリーのものに言い間違えるので無関連錯語という。
ジャーゴン失語はこれらの錯語が重なり合ったものと理解されており、「イヌ」と言おうとして「カコ」とか「サケイ」など全く新しい言葉を使いながら流暢に話す失語症である。
治療は言語聴覚士という専門職により言語訓練が行われる。
手足の麻痺と同じように発症から6ヶ月以内がもっとも回復しやすい期間である。
身体機能の回復程度に比し、言語機能の回復はなかなか難しいケースが多い。
だが、これまた手足の麻痺と同じように、回復期が過ぎたとしても数年単位でゆっくり、ゆっくり回復していくケースもある。
多少なりともコミュニケーションが取れるようであれば、家族や友人の間で、あるいはデイサービスなどで会話の機会を増やしてみることも重要となってくる。
脳の言語の領域は利き手側にある。
右利きの人は左半球の病巣によって発症する。
なので、左利きの人は右半球の病巣によって失語症が発症することになる。
一般的には右利きの人が多いため右麻痺を発症した場合には言語障害の有無が懸念される。
逆に左麻痺を発症した場合には高次脳機能障害を伴うことが多い。
高次脳機能障害には空間認知の障害もあり、そのため手足の麻痺の程度が同じくらいの右麻痺患者に比べ、左麻痺患者の運動機能の自立レベルは低い場合が多い。
失語症にしろ、高次脳機能障害にしろ、本人にとっても家族にとっても大変であることには変わりはなく、大変さの質が変わるだけである。
もしあなたの周りに失語症を患っている方がおられたとしたら、人とのコミュニケーションをとれないことの苦しみ、もどかしさ、悔しい思い、などに思いをはせてみてほしい。

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