フレゴリ症候群
2025/05/22
「カプグラ症候群」という疾患がある。
下記をご参照いただきたい。
カプグラ症候群 | こけ玉のブログ
これは家族、恋人、親友などが、瓜二つの替え玉に入れ替わっているという妄想を抱く病気である。
病因は、脳の視覚野と情動の中枢との結合が、何らかの原因で切れてしまったことによる。
視覚野は損傷されてはいないので、例えば母親を見て、母親と同じ顏であることは認識できる。
しかし、その視覚から得られた情報と、母親に対して感ずる情動(親愛の情であったり、憎しみの情であったり)とが結びつかないため、「今見ている人は偽者だ」と思い込んでしまうのである。
このカプグラ症候群は1923年にフランスのジョセフ・カプグラ医師らによって報告された精神疾患である。
この疾患は身の回りの人たちが偽物であると認識するだけでなく、鏡に映った自分すらも偽物であると認識することもある。
それはモノにまで及び、自分の腕時計やメガネまでもが複製に置き換えられたと思い込むこともあるという。
また、「身体失認」と呼ばれる体の認識の欠如を伴うこともある。
この症状は体の様々な部分を自分自身の一部とは認められなくなり、その不可解な部分がくっついていることを説明するために微に入り、細にわたり作り話をすることになる。
ある64歳の建設労働者が脳卒中になり、左腕に麻痺の障害が残った。
しかし、彼は病人であることを認めず、入院していることすら否定し、果ては「入院しているのは母親である」と言うようになった。
医師が彼の左腕を指差し、「これはどうしたのか」と尋ねると、彼は「義理の母親の手か、ほかの誰かの手だ」と答えるのである。
自分も病院で働いていた頃、多くの脳卒中の患者さんと出会ったが、時折上記のような身体失認の症状を伴う方がおられた。
高次脳機能障害の一症状としてみていたが、身体の連続性があるのに、自分の体と認識できない脳の不可思議さを非常に強く感じさせる症例であったことが思い出される。
さて、前置きが長くなったが、今回取り上げるフレゴリ症候群はこのカプグラ症候群とは対照的な疾患である。
これは患者にとっての特定の人物が、他人に化けて自分に危害を加えようとしていると感じる妄想である。
つまり見知らぬ他人すらも既知の人物が変装しているとして認識してしまうのである。
例えば、ある27歳の統合失調症の女性は、いつも劇場で見ていた二人の女優が、身近の人々の姿に変装して自分に言い寄り、性愛的な迫害を加えると訴えたという。
この疾患は妄想型障害に分類されるというが、なぜそれが引き起こされるかは正確にはまだ分かっていない。
カプグラ症候群が視覚野と情動の中枢との連絡に障害が生じていると推察されているように、フレゴリ症候群もある種の視覚記憶の問題と顔の認識を担当する脳の中心部への損傷と関係があると考えられているとのこと。
この疾患は疫学的調査が行われているかどうかも分からないが極めてまれであることは間違いない。
フレゴリ症候群が単独で発症することはなく、幻覚や他の妄想とともに現れることが多く、最も頻繁に見られる障害は統合失調症だという。
脳損傷や薬剤による発症なども確認されているらしい。
なかなか有効な治療は見いだせていないようであるが、統合失調症の随伴として見られる場合には抗精神病薬などが使われるとのこと。
本人を目の前にして偽物と認識してしまうカプグラ症候群。
全くの他人を特定の人物だと認識してしまうフレゴリ症候群。
そういえば認知症も進行してくれば我が子でさえ分からなくなってしまう。
改めて相手を正確に認識できるということの不思議さを思い知らされる。
と同時に、相手を正確に認識できるということは何と幸せで平和なことなのだろうか。
あなたにとって、忘れたくない相手とは誰ですか?
体のこと、あれこれ
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