青い鳥症候群
2023/06/02
今回取り上げたこの青い鳥症候群、症候群と付いているものの基本的に病気ではなく、一部の若者のある特性を言い表したものである。
病気とは言えないが、これに深く陥るとうつ病に発展する危険性もあるとのことなので、あえて紹介したいと思う。
「青い鳥」とはベルギーの作家であるモーリス・メーテルリンクが書いた童話「青い鳥」から付けられたものである。
命名は1983年、日本人の精神科医、清水将之氏によるという。
童話「青い鳥」はチルチルとミチルの兄妹が魔女に頼まれて「幸せの青い鳥」を探す物語である。
二人は様々な国を訪れて「青い鳥」を捕まえるのだけれども、その国を出るとたちまち鳥は黒く変色してしまう。
いくつかの国を回った時、お母さんに起こされ、その旅が夢であったことに気づく。
すると、自分たちが飼っている鳥かごの中に青い鳥の羽を見つけ、現実の幸せは案外身近なところにあることを知るというものである。
そのような童話の要旨になぞらえ、現実と理想とのギャップに不満を感じて極端に理想を求める若者の行動を清水氏が「青い鳥症候群」と名付けたのである。
青い鳥症候群の人は「もっと自分に合った仕事があるのではないか」「もっと他にいい人がいるのではないか」という風に考える傾向があり、転職を繰り返したり、恋愛でもすぐに新しい恋人に乗り換えたりしてしまう。
元々は20代前半の高学歴者に多いとされてきたようだが、近年では上は30代前半、下は高校生にまで及んでいるという。
なんと、このような若者の特徴は日本独自のものでもあるそうだ。
何と言ったらいいのか、少々情けないような気もする。
本質的な特徴は「理想を追い求めて、現実から逃げる」というところにある。
世の中を安直に考え、努力や忍耐ができない。
仕事や恋愛において、うまくいかないと職場や交際相手に原因を転嫁する。
その為、職場の人間関係も長続きせず、転職を繰り返したり、定職に就かなかったりする。
恋愛においても同様で、交際相手との関係も長続きしない。
ちなみに、実力が伴っていて、自分の能力を生かすために転職し、次の職場で力を発揮できている人は、転職を繰り返していても「青い鳥症候群」ではない。
しかし、本人には「青い鳥症候群」の自覚はないため、改善に向けた行動はなかなか取られない。
それどころか、何度繰り返しても理想と現実とのギャップが埋まらないために、結果的に無気力や投げやりになり、ひいては自分は何をやってもダメだと目標を見出すことができなくなり、うつ病を発症する可能性もあるという。
青い鳥症候群になりやすい人の特徴
完璧主義:
最もよく見られる特徴。
何事にも自分の納得できる結果を出せないことを悔やみ、常に100点を目指す。
完璧主義であるがゆえに他人にも完璧性を求めがち。
協調性が乏しい:
高学歴の人がなりやすいのは、勉強だけに専念していると、学業だけが価値判断の基準になりがちになるから。
友人や周囲との関わりが少ないと、価値判断のズレを指摘されることも少なくなる。
一方でプライドも高いことから、他人を尊重できなくなり、会社の中での人間関係を円滑に形成することができない。
人間関係がうまくいかないと、自身に原因を求めることなく、自分を認めてくれる他の環境があると考える。
機転が利かない:
新しい環境に置かれるとどうすればいいのかわからなくなる。
突然の状況に対応できない。
過大評価:
自分自身を過大評価する人は、自分の能力に見合った仕事ができないと感じやすく、仕事に対して不満を持ちやすくなる。
結果は出ていなのに、思い上がった態度をとりやすく、謙虚さに欠ける。
こらえ性がない:
我慢して待つことができないために結果が出るのを待てずにやめてしまう。
なお、幼い頃は親の言うことをよく聞く、手のかからない「良い子」で、中学入学前後に、反抗期らしい反抗期が見られない場合も多いという。
やはり自立心が磨かれることは大切なようだ。
青い鳥症候群が増えてきた原因
日本独自の若者の特徴と言われる青い鳥症候群が増えてきた原因は、社会面ではそれまで当然とされてきた終身雇用制度が揺らぎ始め、転職する人々が増えてきたことで、転職することへのハードルが下がってきたことがあると言われている。
また、家庭面では親子関係の歪が指摘されている。
思春期においては親子の意見の対立が生まれることは当然で、そのぶつかり合いの中で徐々に精神的な自立も促されていくのであるが、その時期に親が子どもの自主性を妨げてしまうと、結果的に青い鳥症候群になりやすいと言う。
青い鳥症候群の克服には、自分自身を見つめ直し、理想と現実の差に気づくことが大切とのこと。
つまり、青い鳥症候群であることの自覚を持つということだろうか。
そこで、まずは完璧主義や協調性の乏しさの見直しから。
特に、他人は自分の思い通りにはならないことを自覚し、価値観を押し付けないことを心がけること。
そして、余裕が出てきたら、他人の短所と長所の両方を探すことで完璧な人間などいないことを学ぶ。
そうすれば自然と自分自身の考え方も楽になり、理想ではなく、現実を見ることが出来るという。
また、青い鳥症候群の人は「自分自身の希望」と思っていたものの中に、実は親の希望だったことが反映されていることもあるという。
「親の希望」と「自分の希望」を分け、本当に自分はどのように生きたいのかを考えてみるのも大切だという。
そして、親子の歪が根底に有るとしたら、自分だけの力で抜け出すことは難しいので、カウンセリングの活用も勧められている。
もし、親御さんも協力的であるようなら親子カウンセリングが受けられるようだと更に良いようである。
このように克服への道もあるけれども、多くの場合、本人や家族には長い時間と労力が必要とされる。
当然ながら、予防できるものならその方がいい。
まずは、親は中学生になる頃の子供の自己主張を踏みにじらないようにすることが肝要である。
少子化の中で、どうしても子供に過干渉になりやすいが、本人が伸びようとしている力を押さえつけないようにしなければならない。
子供の言動は危なっかしく見えるかもしれないが、失敗したり、傷ついたりを経験することで現実に向き合うことができるようになるのである。
青い鳥症候群は親子の問題でもあるけれども、社会問題でもある。
毎年4~5月頃になると、わずか数日の出社で辞める新入社員の話が出てくる。
辞めて次のところで花が開くようであればいいのだが、圧倒的多くはそのようにはならない。
次に向かう確固たる何かを持てている人は大丈夫かもしれないが、何の見通しもなく辞めていく多くの人は、同じような轍を踏むであろう。
これは本人にとっても、会社にとっても、社会にとっても良いことではない。
メーテルリンクの童話のように、幸せは身近にあることを発見できたら幸いである。
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