酒さ
2018/11/09
「酒さ」という疾患は、簡単に言うと中年以降に主に顔面に生じる原因不明の慢性炎症性疾患である。
この疾患名は、顔面が火照り、赤くなることから酒を飲んだように紅潮するという容貌から付けられたネーミングだと思われる。
ちなみに、漢方だと「酒さ」の「さ」は左側に検査の査、右側に皮膚の皮、「査皮」という日本では使われていない字か、あるいは「酢」の漢字が当てられている。
症状は、鼻、眉間、頬、あごなどの顔面を中心にほてり感を伴う潮紅、毛細血管の拡張が見られる段階は第Ⅰ度で、紅斑性酒さと呼ばれる。
化粧品や石鹸などの軽い刺激でもヒリヒリしたり、灼熱感が生じ、いわゆる敏感肌となる。
第Ⅱ度になると、赤い丘疹(ボコボコした腫れ)や膿疱(うみ)が多発し、酒さ性ざ瘡と呼ばれる。
第Ⅲ度では鼻や頬を中心に結合組織の増殖を伴って隆起して腫瘤状を示し、鼻瘤と呼ばれる。
漢方では「酒さ鼻(しゅさび)」とも呼ばれ、顔面全体の赤みよりも鼻の症状により注目されている。
鼻の頭が赤くなり、それが徐々に紫黒色を帯びてくるようになると言われている。
ひどくなると変色が尾翼にまで広がり、皮膚が厚くなり、イボ状の隆起が見られるようになるという。
そしてさらに重症化してくると鼻がキビのようになり、赤く腫れて痛み、破れて白色の汁を出すのだそうだ。
古い時代の設定の漫画には、時々鼻が大きく腫れてイボができている悪役などが登場するが、それなのかもしれない。
現代医学では原因はわからないとされている。
人によってはもともと何らかの疾患を患っていて、それの治療で副腎皮質ステロイド薬を長期間にわたり使い続けてきた為に副作用で生じた皮膚病と見ている人もいる。
悪化させる要因としては精神的緊張、紫外線、温熱、寒気、飲酒、香辛料が挙げられている。
つまり顔を紅潮させるようなあらゆる刺激ということのようだ。
女性では閉経前後に悪化しやすいとされ、偏頭痛の合併症も多いことから、血管を拡張させたり、収縮させたりする血管運動神経の異常が考えられている。
治療としては、一応内服薬はあるようだが、完治しにくく経過が長いとされる。
ステロイドも一時的には効くが、病態を悪化させてしまうので使われないとのこと。
これは全く個人的な見解だが、「酒さ」という疾患名がそもそも東洋医学で使われているものである以上、東洋医学的病態の捉え方、治療法の方が対処法としては正しいというか、より早期に改善するものと思われる。
まず漢方では清熱・涼血・散結の方法を用いるとされている。
清熱とは寒涼の薬物を用いて熱病の治療をする方法のようである。
涼血も清熱法の一つ。
散結とは出来物などを散じさせる方法とのこと。
それぞれ適応する漢方薬を使用する。
鍼灸的には、これは一も二もなく熱処理に尽きるだろう。
以前、「酒さ」だったのかどうかは不明であるが、顔の紅潮で悩んでいた女性の治療をしたことがある。
毎年、夏になると特に症状がひどく、外出し、日に当たると更にひどくなると訴えておられた。
これはもう単純に熱邪に犯されたものと見て、徹底した熱処理を行った。
すると確か2回ほどの治療だったと記憶しているが、数年続いていた症状がすっかり良くなったという事例を経験した。
数年続く症状ではあったが、第Ⅰ度のレベルでとどまっていたために、急激な改善につながったのだと思う。
ちなみに、「酒さ」にはいくつかの別名があるが、その中に「肺風」とか「肺風粉刺」という呼び名もある。
さらに「素問」という古書の「熱論」の章では「脾熱病の者は、鼻先ず赤し」との記述もある。
診療の際には肺経や脾経のチェックなどもしておくと見逃しがないかもしれない。
結局、「顔の皮膚の炎症」とだけ見ると皮膚上から薬を塗るとか、悪化させないために刺激を避けるといった治療にとどまってしまうが、
「体の中で熱の処理がうまくいっていない状態」という視点に立ち、東洋医学的観点からの治療を行うと、こちらの方が著効を示すこともあるということ。
もちろん、現代医学も素晴らしい実績を重ねているし、特に外科の分野などは比べるべくもないほど発展している。
しかし、鍼灸の臨床経験を積めば積むほどに、人の体の成り立ちは経絡によって支配されているのだということを自分はしみじみと感じる。
これまでも何度も書いているが、現代医学における内科的治療では、時に漢方薬などの東洋医学が応用されることがある。
しかし、漢方だけでなく鍼灸治療も加われば、どれだけ治療成績を上げることができることかと思う。
Drの中には個人的に鍼灸を認める方もおられるかもしれない。
だが、今のままでは国の医療制度として、今以上に鍼灸が認めることはなかなか難しいだろう。
日本全国津々浦々で「現代医学でも治らなかった状態が鍼灸で治る」ことが当たり前のように起きてこそ医療関係者の中で認められ、ひいては保険診療も充実し、医療の一翼を堂々と担うことができるようになることだろう。
そんなことを考えさせられた「酒さ」だった。
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