遺伝子操作
2022/06/23
2018年11月、ショッキングなニュースが世界を駆け巡った。
中国の研究者がゲノム編集された双子の赤ちゃんを生む手助けをしたというのである。
編集の目的はエイズ感染を防ぐためというが、この行為に対し世界中の研究者はもとより、中国の科学技術省や中国生物医学会も主に倫理上の問題として批判のコメントを出した。
単純に考えれば「病気にかからないためのゲノム編集」のどこが悪いのかと考える人もいるかもしれない。
本稿では98号で岡井崇氏の「デザイナーベイビー」を取り上げ、若干その話題に触れた。
その際、ゲノム編集の問題とは「どんな人間も思い通りに作れる」ことから、ひいては「優生思想」につながりかねないところにあると伝えた。
今回は現在の遺伝子操作について、もう少し掘り下げてみたい。
ゲノム編集されて生まれてくる赤ちゃんは「デザイナーベイビー」と呼ばれるが、それが何故問題なのだろうか。
「スポーツの才能に恵まれた子が欲しい」
「IQの高い子がいい」
「美しい子が欲しい」
「アーチスティックな才能を持つ子が欲しい」
人の欲望は果てしなく、「望み通りの子を手に入れる」そうした価値観が許されてしまえば、条件に合わない子は「価値のないもの」として生命の軽視にもつながる。
つまり、「優生思想」が肯定されてしまいかねないのである。
差別はより助長され、金を持つ者と持たざる者の間に、能力や才能、生命力の差ですら今以上に広がっていくことにもなる。
そうした倫理的な理由だけでなく、DNAの変化が何世代にもわたって受け継がれる可能性があることや、他の遺伝子が傷つく恐れがあるという科学的な理由においてアメリカではゲノム編集は禁止されている。
ゲノムとは遺伝子情報のことで、それを編集することでDNAを改変することができる。
人間の遺伝子の場合は22000個程度の遺伝子が存在している。
この遺伝子によって、私たちそれぞれの個性を持った人間が決定づけられ生まれてくるのである。
実のところ最近、精子や卵子など生殖細胞系のゲノム編集が数年来には実現すると言われていたそうだ。
つまり、技術的には実現可能であると認識されていたというのである。
遅かれ早かれ、世界的合意を逸脱する研究者が出てきたのかもしれない。
我々の身近にある「遺伝子操作」と言えば、大豆の遺伝子組み換えであろうか。
現在どのようなものに応用されているのかを見てみると、2006年の時点で既に人へのアレルギー反応を起こさせないようにした猫が作成されていたという(「作成」という言葉はどうにも馴染めないが、そのように表記されている)。
それ以外にもブタノール燃料を作り出す大腸菌、蛍光オタマジャクシ、インシュリンを作り出すレタス、CO2をより多く吸収するスーパーツリー、ワクチンを迅速に作り出すマッシュルーム、暗闇で光る猫、効果的な抗がん剤としてのバクテリア、統合失調症のマウス、爆薬を感知する酵母菌など微生物、動物、植物、あらゆる分野に応用されている。
中には必要性のないゲノム編集も行われており、「技術の進歩」を証明するには有効かもしれないが、こうした面白半分のような行為が倫理性を低下させ、人にまで手を出すことにもつながったのかもしれない。
つい最近では米ジョージア大学でハムスターの社会性を無くす遺伝子研究も行われた。
研究者の予想では社会活動が行われなくなるだろうとのことだったが、結果は逆に社交的になり、加えて同性のハムスターに対しては攻撃性を増したという。
つまり、社会性を保つ仕組みは想定されたモノよりはるかに複雑なものであるという。
このように一つの遺伝子操作が思いもかけない現象を引き起こすこともあり、それが植物で行われていて我々の体内に入ってしまうと考えると不安を感じずにはいられない。
ところで、「遺伝子操作」と「遺伝子組み換え」の二つの用語が混在しているが、日本では「操作」の印象が悪いのか「組み換え」の言葉が使われているそうだ。
また、「GM大豆」などのGMはGenetically Modified の略で、「遺伝子組み換えされた」の意味になる。
上述のように動物の分野にまで遺伝子組み換えは行われているが、最も行われているのはやはり植物である。
全世界の大豆作付面積の83%、とうもろこしの29%、ワタの75%、菜種の24%がGMであるとのこと。
意外な程既に流通しているのが分かる。
ちなみに、スーパーで売られている豆腐などは「遺伝子組み換えでない豆腐」が強調されているが、このように顔の見える豆腐はGM以外のものなのかもしれないが、飲食店や加工品などで安く提供されている豆腐をはじめとした大豆加工食品には輸入量からしても多く使われていると推察されている。
現在、GM製品が危険であるとの研究結果は出ているが、まだ結論にはいたっていない。
しかし、安心であるとも言い切れないとある専門家は言う。
遺伝子組み換え農業は健康や自然環境だけにとどまらず、社会的な影響も大きいと指摘する人もいる。
以下はGM農業が作り出す問題点を指摘しているサイトである。
http://altertrade.jp/alternatives/gmo/gmoreasons
遺伝子組み換え植物の何が問題なのか。
例えば除草剤を撒いても、ほかの雑草は枯れてもそれだけは枯れないという植物。
食べた虫が死んでしまう植物。
なんとも栽培するには楽チンで、まさに穀物メジャーには持って来いの植物である。
GM食品の割合が高いアメリカではその出現とともにガン、白血病、アレルギー、自閉症などの慢性疾患が増えているという。
この事実だけでGM食品のせいだとは言えないが、疑ってみる必要はあるだろう。
しかし、「安全性」を唱える研究は提供者側からのものばかりで、逆に危険性を唱える研究者は職を追われるケースも出ているとか。
本当に「安全性」に自信があるのであれば、第三者による大規模な研究で立証してみることが未来の人類にとって大切なのではないだろうか。
人のゲノム編集には厳しい規制を持つアメリカだが、穀物メジャーの力が大きいせいか、こと食料についての規制はどうも緩いようである。
農薬耐性遺伝子組み換えの技術で除草剤の使用量が減ると宣伝されてきたが、実際は除草剤に耐性を持つ雑草が増えたことで、かえって除草剤の使用量が増えてきているという。
目的の植物が枯れなくなったことで、除草剤の撒き方も制限がなくなり、そのため地下水の汚染も進み、地域住民には健康被害が及んでいるというのである。
自然界にとって不自然なことをすると、巡り巡って人間に悪影響を及ぼすというこれまで人類がしてきた過ちを、「効率」の名のもとにまだ改められないでいるのである。
その他、社会的な問題も引き起こすとされているGM農業。
ぜひサイトをご覧いただきたいのだが、最も危険なのは、GM植物と自然植物との交配によって生まれる今までにない植物の発生である。
例えば、寒冷地に強い植物を作る目的で寒冷地に住む動物の遺伝子を組み込むとする。
これまではその部分の遺伝子には単一の役割しかないと考えられてきたので、そのような発想が生まれたのであるが、現在、遺伝子は複数の役割を持っているのではないかと考えられるようになってきたのだという。
まだわからない役割を持つ遺伝子が組み込まれたことで予測不能な植物が生まれてくる。
それが自然植物と交配した時にはさらに予測不能な植物が生まれるのである。
しかも、一度自然界に解き放たれた遺伝子は、放射能のように回収不可能になるのである。
これは動物の遺伝子組み換えへの対応よりもさらに厄介である。
人類が遺伝子に手を出すにはまだまだ考え方が短絡的で幼く、技術もまだまだ不十分なのかもしれない。
ちなみに、冒頭の中国人科学者が作ったとされる「エイズにかからない人間」は意味がないともいわれている。
それは薬による治療効果が高く、エイズはすでに「死に至る病気」ではなくなったからだ。
つまり、彼の研究は人類にとってあまり意味を持たず、いたずらに遺伝子をいじっただけということである。
産まれてくる子供に意図しなかったマイナスの変化が出てこないことを祈るばかりである。
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