おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

ディオゲネス症候群

2025/02/26

もし、あなたの近所にゴミの収集をエスカレートさせて家全体がゴミ屋敷と化しているうちがあるとしたら、その家の住人はディオゲネス症候群(DS)かもしれない。

そのような住人をちょっとおかしいとは誰しもが感じるだろうが、それにはきちんとした診断名がついているのである。



DSは高齢者の行動障害である。

症状としては、

①極度の不潔な環境での生活、

②セルフネグレクト、

③非衛生的な状態、

などがあげられる。そして、

④自己決定による孤立、

⑤外部からの助けを拒否する、

⑥変わったものを溜め込む、

などという傾向が伴うとのこと。



実はこのDS、名前はついているが正式な疾患名とはなっていない。

その理由は、そのような人の中には通常の人たちの2倍の確率で認知症を伴っている人がいる。



そのため、認知症の一症状なのか、はたまた精神疾患としての症状なのか、生来のキャラクターによるものなのか、50年以上も様々な論文で語られながら、未だ統一された見解が出されていないからである。

また、社会的なかかわりを拒絶する側面があることから「ひきこもり」として捉える向きもある。





この「ディオゲネス」という言葉はソクラテスの孫弟子の一人の名前なのだそうだ。



彼は「必要なものが少ないほど神に近い」という思想を持ち、樽の中で暮らしていたという。

彼の生き方は、これまでの風習に左右されず、人間にとっての真の価値を追求するものとして称えられることも多いとのこと。

彼は肉体が必要とする最小限のもの以外は何もポリス(都市国家)からは求めない。

そういう意味ではセルフネグレクトともいえるほど栄養状態が悪く、社会と隔絶するかのような生活をしているDSの人らは一見ディオゲネスと似ているかもしれない。



しかし、ディオゲネスが提唱したコスモポリタニズム(世界市民主義)は、現存の国家や民族といった枠組みの価値観にはとらわれずに、世界をただ一つのコミュニティーとしてそこに所属すべきだという考えであり、周囲の価値観からは逸脱しているかもしれないが、国家や政府の存在を認めている。

そういう点で、「引きこもり」のように社会との接点を自ら拒絶し、孤立を深める者とは本質的に異なっているように思える。

また、ディオゲネスは肉体が求める最小限のものしか求めなかったが、ゴミ屋敷の住人たちは「何かの役に立つ」という価値観で、一般的にはゴミとされるものを収集するとか(能動型ディオゲネス症候群)、ゴミを捨てられずに自宅にため込んでしまう(受動型ディオゲネス症候群)、といったモノへの執着を見せる。

そういう点ではディオゲネスが提唱した世界観とは根本的に異なるように思える。

だが、一見した生活様式がディオゲネスと似ているためにその名がついたようだ。



年間の推定発症率は、在宅で生活する60歳以上の人口1000人当たり0.5人だそうだ。

ちなみに、2025年2月1日現在の盛岡市の60歳以上の人口は

100518人である。

全員が在宅で暮らしているわけではないと思うが、単純計算で約50人程度はこのディオゲネス症候群になっている計算である。

もちろん、個人差があるだろうし、戸建て住宅であれば庭などに集積されたゴミで周囲に認知されやすいかもしれないが、集合住宅では室内にため込まれたゴミに気づかれないこともあるだろうからそこまで目立つ存在にはなっていないかもしれない。

いずれ一定程度いることは確かであろう。

もちろん、若い層にも存在している。



社会経済的地位や職業に特異的なものはなく、誰しもが陥る可能性を持っているようだ。

基本的に男女差はないが、未亡人がなりやすいとの報告もある。

これは伴侶など大切な人を亡くした後、自分自身をケアする気力がなくなることで陥りやすくなるためかもしれない。

一般的には一人暮らしの高齢者が発症するが、兄弟姉妹や夫婦の症例もあるという。



本症が表す特徴は多くの疾患の症状にも含まれるため、特定の疾患として分類することは困難となる。

認知症、うつ病、強迫性障害、アルコール依存症などの合併症が原因、あるいは寄与因子としてあげられている。

精神医学的な分析では、彼らのパーソナリティーとして、親しみやすさ、頑固さ、攻撃性、独立性、偏屈性、被害妄想、飄々とした態度、無関心、強迫性、ナルシシズム、洞察力の欠如などを示すことが多いとされている。

しかし、一方で認知症や精神疾患の存在が認められないケースもあり、生来の性格的なものの関連も指摘されている。

予後は悪く、5年生存率は46%と低い。

これは衛生環境の劣悪さや、栄養状態の悪さなどに起因すると思われる。

「高齢者のセルフネグレクト」というキーワードで検索すると、まさにDSそのものの症状を持つものが上がってくる。

こうした高齢者の極端な自己否定的行動は、間接的な自己破壊的、自殺的な行動の一形態ではないかという人もいるようである。



以前、何かのTV番組で芸人がゴミ屋敷のゴミを片付けるということをしていた。

残念ながら時間の経過とともに再びゴミ屋敷へとまた戻っていったように記憶しているが、彼らにはどのように対応していくべきなのだろうか。

その不衛生さ、悪臭、彼らの頑迷さなどから、ともすれば地域住民とは対立的な関係になりがちだと思うが、基本的に彼らの意志の尊重という点は大前提としながら、おそらくモノの収集は孤独を埋める表れとも考えられるので、孤立を深める彼らだが、人との交流の楽しさみたいなものを思い出せるまでの粘り強い働きかけが必要なのかもしれない。

TV番組に出ていたようにちょっとした介入さえ許されるようになれば(家族でも第三者でも)、合併症の治療や衛生面での向上など身体的フォローもできるようになるであろう。

また、そのような状態に陥ってしまった背景なども知れるようになれば心理的なアプローチや、場合によっては服薬などによるフォローもできるようになるのではないだろうか。

「拒絶」を乗り越えるのは並大抵な覚悟では乗り越えられないだろうが…。


「社会的孤立」は現在では「自己責任」的なとらわれ方をしがちだが、ディオゲネス症候群の多くが認知症や精神疾患を背景にしているようなら個人の責任ではどうにもならない。

人類の生き残り戦略が「支え合うこと」によって生きながらえてきたのだとしたら、このような最も困難なケースにこそ社会資源が振り向けられるべきではないだろうか。

それと、誰もが陥る可能性があるディオゲネス症候群。

大切な人を亡くした時、心の隙間を埋めるなにかを持っていることも大事なのかもしれない。

世の中の独り身の人間には無視できない疾患である。


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