オーバードーズ
2026/01/07
前回取り上げた「処方カスケード」は、処方された薬の副作用を医師が「新たな病状」と誤認して新しい薬が処方されるというもので、「ポリファーマシー(害のある多剤併用)」は複数の医療機関を受診することで生じやすくなる薬害であることを紹介した。
それらは医療者側も患者側も全く意図しない中で起きる状況だが、今回は患者がその弊害を半ば知りながら薬の過剰摂取(オーバードーズ)についついはまり込んでいく状況を取り上げてみたい。
日本では精神科の患者に対する多剤大量処方が問題となり、2014年度からは一定数を超えた処方箋の診療報酬が減額されることとなった。
それによって、むやみやたらと大量に処方されることがある程度予防されることになったことは喜ばしいことだろう。
しかし、2010年に原因不明の死亡を司法解剖した約3000人から医薬品(28%)やアルコール(22%)の検出が多く見られたという(医薬品の内訳は睡眠薬10%、精神神経用薬10%等)。
そうした実態が現在ではどれほど改善されているのか資料を持たないが、あるサイトではその後も大量処方を繰り返す医者が中にはいると報告されていたし、オーバードーズという言葉が一般にも認識されるほど社会的問題化してきているのが実態である。
アメリカでは11年連続で過剰摂取による死亡が上昇しており、驚くことに原因薬物は一般医薬品や違法薬物ではなく、処方箋医薬品が半数以上を占めているという。
2010年には38329人が薬物過剰摂取で亡くなり、その原因薬物1位はオピオイド系の鎮痛剤で16651人、2位はベンゾジアゼピン系の鎮静催眠剤で6497人、3位は抗うつ剤で3889人となっているとのこと。
なぜそのような事態となるのか。
それは大手製薬会社による副作用の隠蔽や、処方した医師に対して奨励金を支払う、適応のない病気に対してもマーケティングを行うなど違法な販売方法をとることで販売実績を大幅に上げたことによって生じている。
彼らはそれらの違法行為に対し罰金を支払っているが、それ以上に儲けの方が大きいということだろう。
正規に処方された薬による死亡が、違法薬物による死亡よりもはるかに多い。
そんなめちゃくちゃなことがあるだろうか。
同様の傾向はイギリスでも起きており、英米では交通事故の死亡者数よりも上回るという。
個人的にはそうした大量販売を進めたい製薬会社、処方すればするほど儲かる医者、制度的な制限をあまり進めようとしない国の姿勢などが、若者たちにオーバードーズが広がりやすい素地となっているように思われてならない。
現在SNS上では「つらくてまた飲んでしまう」「明日から学校。死にたい気持ちをごまかした」などという投稿とともに大量の薬の画像を挙げる若者が増えているのだとか。
社会問題化となっている「オーバードーズ」とは多幸感を得て精神的な苦痛から逃れようと、医師から処方された薬やドラッグストアで買える咳止め薬などを大量に摂取することを言う。
そして、過剰摂取による薬害は時に命をも奪ってしまうのだ。
以下はその主な症状である。
〇意識の変化: 意識消失、または混乱状態になることがある。
〇呼吸困難: 薬物の種類によっては、呼吸が抑制されることがある。
〇激しい嘔吐: 薬物の過剰摂取により、吐き気や嘔吐が引き起こされる。
〇心拍数の異常: 心臓のリズムが乱れる(不整脈)。
〇幻覚や錯乱: 特にコデインやデキストロメトルファンを含む薬物の過剰摂取では、幻覚や興奮状態が現れることがある。
〇肝臓や腎臓への負担: 大量の薬物が体内に入ることで、肝臓や腎臓に深刻なダメージを与える可能性がある。
NHKのWebリポート(https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20210701.html)が伝えるところでは、リアルの世界での生きづらさに悩む若者が、SNS上でオーバードーズのことを知って自らその世界に入っていくとのこと。
そこではリアルの世界で生きづらさやオーバードーズした際の感覚などが共有され、自分の「居場所」であることが実感されるようである。
また、多くの「いいね」が付くことで承認欲求が満たされ、より大量のオーバードーズをする人が崇め奉られるという。
下記の表は2014年以降の薬物依存で治療を受けた10代の若者がどのような薬物を使用したのかを表したものだが、ここ数年で最も多くを占めていた危険ドラッグから市販薬に変化しているのが分かる。
これはこれまで以上に危険な状態ではないだろうか。
使用している本人たちには違法でないだけに危険の認識も低いだろうし、市販薬であるために気軽に手に入りやすい。
反社勢力やその予備軍と思しき者たちとの接点を持たずに手に入れられるというのは非常にハードルの低い入り口になると思われる。
市販薬とはいえ、咳止めや風邪薬には麻薬に似た成分が含まれていることもあり、中にはほかの薬物と比べても依存性が強いものもあるという。
単に依存性が高くなるだけでなく、市販薬に含まれるカフェインの大量摂取により致死性不整脈やアセトアミノフェンによる肝不全が原因で亡くなるケースも少なくないとのこと。
では、このような実態をどのように変えていくべきなのか。
リポートではオーバードーズをしている本人や家族の話なども出ているので是非お読みいただきたいが、基本的には今の若者が抱える生きづらさを理解するところからが始まりなようである。
国立成育医療研究センターが715人の児童・生徒を対象に行った調査では、一週間のうち「死にたい」「自分を傷つけたい」と思ったことがあると答えたのはおよそ4人に1人だという。
思春期に「死」を意識するのはありがちだが、年単位ではなく、週単位でそのような思いを抱えているのが4人に1人とはあまりにも多いだろう。
いま日本では7人に1人の子供が貧困に陥っていると言われている。
そうした経済状況も原因の一つであろうし、「自己責任」や「勝ち組・負け組」、「いじめられる側にも原因がある」など殺伐とした価値観が蔓延していて、大人でさえ息苦しくなっているのではないだろうか。
リポートではオーバードーズに陥っている子に対し、それを否定してはいけないと言っている。
もちろん、オーバードーズ自体早く辞めさせた方がいいが、それを否定するだけでは子供はネットからの情報の方が「正しい」と思っているので、「結局親は理解してくれない」と思われるだけだと。
オーバードーズをどうやめさせるかではなく、孤立している人たちが抱える苦しみにどう気づき、支えていくか。
周囲の人がどう寄り添っていくのかを考えなければならないと結んでいる。
リポートに登場する人には30代の既婚男性もいた。
決して10代の若者だけではないのだ。
あなたは生きづらさを抱えてはいないだろうか。
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