萎縮性胃炎
2022/02/19
「ストレスは胃に来る」とか「腸は第二の脳」というように、消化器官が精神的なものとのつながりが強いことや、全身の健康状態に大きく関与していることは現在では常識となっており、当サイトでも何度も報告させてもらっている。
最近では腸内細菌を改善することで、一見関係のなさそうなパーキンソン病やうつ病の改善にもつながるという報告もあり、いよいよ持って消化器官の健康状態を保つことが全身の健康状態を保つことに大いに関わりがあるとして、その重要性が認識されてきた。
そこで今回は胃に注目してみたい。
まずは胃炎の基礎知識を。
胃炎といっても大きく急性胃炎と慢性胃炎とに分かれる。
急性胃炎
原因:食べ過ぎ、飲み過ぎ、喫煙、ストレス、辛いものなど刺激物の摂取、極端に熱いもの・あるいは冷たいものの摂取、など胃酸の過剰な分泌で起きる。時に薬の副作用や毒物の摂取、感染によるものもある。
症状:胃痛、胸焼け、みぞおちあたりの痛み、吐き気、腹部の不快感、膨満感、下血
慢性胃炎
原因:ピロリ菌により胃の粘膜が傷つけられ炎症を起こす(80%)。当然のことながら、急性胃炎でも不摂生を続けていれば慢性胃炎へと移行する。
症状:胃痛、胃重、胃のむかつき、胸焼け、吐き気、腹部の張り、食欲不振など
※慢性胃炎の明確な定義はあまりなく、持続的に炎症症状を抱えているものを指す。
急性胃炎のような明確な原因が否定されてなお症状が続く場合は慢性胃炎と呼んでいいようである。
胃という臓器は、様々な刺激で変調をきたしやすいせいなのか、非常に活発に新しい細胞を生み出すことで修復しやすい臓器でもあるという。
だが、その素晴らしい能力にも自ずと限界はあり、いずれは再生不可能な状態になってしまう。
慢性胃炎をそのまま放置し、上記のような症状が続くと、胃液や胃酸などを分泌する組織が縮小し、胃の粘膜が萎縮してしまい、いわゆる萎縮性胃炎となる。
萎縮とは胃壁が薄くなり、表面は滑らかさを失いボコボコして、血管が透けて見えるようになるという。
ただし、症状があまりなく萎縮性胃炎になるケースもあり、萎縮性胃炎は単なる加齢現象で起きる場合もあるようだ。
萎縮性胃炎となって組織変化が起きると、その組織は不可逆性で元に戻らないため、萎縮性胃炎になる前の対処が最も望まれる。
慢性胃炎の原因の80%となっているピロリ菌は、ただ保菌しているだけでは症状はないケースが多い(保菌者の約7割)。
ピロリ菌自体が胃炎・胃潰瘍を引き起こし、ひいては胃がんの原因にもなることもある。
例えば怪我で皮膚に傷を負った時、綺麗な傷なら治りやすいが、汚い傷は治りにくい。
それと同じで、胃にピロリ菌がいると、炎症や潰瘍が生じたとき、慢性化するとか、再発しやすくなるという。
潰瘍患者の90%はピロリ菌感染者であり、ピロリ菌を除去すると治りが早く、再発率も下がるとのこと。
だからこそ、テレビの健康番組ではピロリ菌の除菌を勧めているのである。
ちなみに、強力な胃酸の中において、なぜピロリ菌は生きていけるのか。
ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を使って、胃の中の尿素をアンモニアに変え、そのアンモニアが菌の周囲の胃酸を中和して生存出来る環境を作るのだそうだ。
つまり、強酸の中において周りにバリアを作っているのだと。
ん~ピロリ菌、恐るべし!
慢性胃炎から萎縮性胃炎へと移行し、そのまま進むと、胃の粘膜は腸の粘膜のようになり(腸上皮化生)、さらには胃がんへと発展していってしまう。
萎縮性胃炎となって組織変化を起こすと、元に戻るのは不可能なので、それ以前の対処が必要なのだが、仮に萎縮性胃炎となった場合、そこからさらに胃がんへと進行することもあるので、さらなる対処が必要となってくる。
そのためには、諸々の胃炎の原因を解決しなければならないのは基本だが、やはりピロリ菌の除去が最も重要な対処法となるようだ。
ピロリ菌の検査法
〇内視鏡で行う菌検査
培養法:採取した胃の粘膜の培養で確認(3~7日かかる)
鏡検法:採取した胃の粘膜を顕微鏡で確認(培養法に比べ精度が落ちるがすぐわかる)
迅速ウレアーゼ試験:上記のウレアーゼで胃の粘膜のpHが変わっているので、試薬で確認
※迅速ウレアーゼ試験が確実でスピーディーな診断が可能とのことで、この検査をしている医療機関を探すことが推奨されている
〇内視鏡を使わない検査
抗体検査:ピロリ菌に感染したことでできた抗体を血液や尿から調べる
尿素呼気試験:通常の呼気と試薬を飲んだあとの呼気を比べて確認。30分程度で終わり、患者への身体的負担も少ないので、除菌後の判定に使われる。
便中ピロリ抗原測定検査:便を調べるだけなので負担がなく、小児での検査も可能とされている。
〇検査の費用
検査だけなら全額自費でも、抗体検査で3000円程度、便中ピロリ抗原検査は5000円程度で受けることが出来るとのこと。
保険適用の条件としては健康診断等で慢性胃炎、萎縮性胃炎などの診断を受けるなど(急性胃炎は不適)、いくつかの要件がある。
現在、自覚症状がない場合は上記の自費による検査を受けるしかなさそうだ。
ピロリ菌除去の治療・再発
初回治療は3種類の飲み薬を7日間飲むだけである。
保険が効く場合は3000円程度、効かない場合でも10000~15000円程度で受けられるとのこと。
除菌の成功率は約8割。
除菌の失敗する理由はまだ分かっていないが、約半数には抗生物質への耐性菌が見つかっているとのことで、その時には再度別の抗生物質を使っての除菌治療が行われるという。
この場合も保険適応3割負担の場合に3000円程度で受けられるとのこと。
この二次除菌までで90%以上の除菌が成功するそうだが、二次除菌でもうまくできなかった場合は、その後もピロリ菌とうまく付き合っていくしかないそうだ。
まあ、除菌に失敗しても必ずしも大きな病気になるとは限らず、あまり深刻になりすぎないようにとの慰めの言葉がなんともさみしい気もするが(笑)。
服薬は7日間で済むが、副作用はそれなりに覚悟しておいたほうが良さそうだ。
下痢、腹痛、味覚異常、舌炎、口内炎、アレルギーによる湿疹などが挙げられている。
治療が中止になるほどの強い副作用は全体の2~5%程度だそうだが、下痢などの副作用は比較的多いとのこと。
ピロリ菌が胃に住み着く最大のチャンスは幼児期だけのようで、成人してから新たにピロリ菌が住み着く可能性は低いと言われている。
なので、除菌に成功したら、再発の心配はしなくとも済みそうである。
ピロリ菌の予防
感染ルートは様々な、相反する報告があり、今のところはっきりしていない。
その中で言われているのは下記のものがある。
①糞口感染、
②家族内感染(口~口感染)、
③施設内感染、
④医療感染(消毒の不十分な医療器具による)
①はゴキブリなどが介するとも言われており、幼い子供がいる場合にはゴキブリの除去はしっかり行ったほうが良い。
また、家族内感染は最も身近でできる予防なので、親がピロリ菌を保有しているかどうか不明な場合は飲食物の口移しやキスは避けたほうがいいだろう。
たとえ発症が今は可愛い子や孫が高齢者になってからだとしても、その原因はあなたが植え付けたことになるかもしれないのだから・・・。
ちなみに、親にピロリ菌の保有が発覚したのなら、子供も検査することが勧められている。
普段、なんの自覚症状もないピロリ菌。
なかなか受診して除菌しようなどというモチベーションが上がらない。
しかし、このような実態を見ると、いつかはやっておいたほうがいいのかもしれない。
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