腸内細菌叢
2021/06/30
2014年7月15日に「糞便移植」という治療法を紹介させていただいた。
確か、その前年あたりに初めてその治療法を知ったのだが、当時まだ出始めたばかりの治療法で、ネットで検索をかけても医療側からの情報しかなかった。
しかし、この間に多くの人が経験されているようで、実際に受けた人からの詳細な情報が上げられていたので、下記のサイトを是非ともご覧になっていただきたいと思う。
どのようなものが注入されるのか、どこの医療機関で受けられるのか、どれほどの料金がかかるのか、興味のある方の知りたい情報が全て掲載されている。
【糞便移植って高いの?】腸内フローラ移植の費用と効果、東京で受けられるクリニック | 読むエイジングケア (about-anti-aging.net)
「糞便移植」と聞くと、初めての方は「うわー」と思うかもしれない。
そのネーミングだけでこの治療に嫌悪感を抱く人もいるかもしれない。
なので、現在では「腸内フローラ移植」とか「腸内細菌移植」、「便微生物移植」などの言い方も広がっているようである。
いずれにしろ肝心なのは健康な人の腸内細菌叢を移す治療法であるということ。
腸内細菌を健康な状態に戻すことで、あなたの悩みも解決できるかもしれない。
腸内細菌叢とは
腸内細菌叢とは腸内フローラとも言う。
フローラは「花」の意だが、ぐぐっと広げるとテニスコート1面分もの広さになる腸内表面において、まるで花を咲かせているかのように細菌類が生息していることから「腸内フローラ」とも呼ばれている。
我々日本人は一日平均150~200gの大便をするが、その1/3~1/2は生きた腸内細菌やその死骸だと言われている。
それほど多くの細菌が日々増殖し、腸内環境を整えてくれているというわけだ。
腸内細菌叢の組成は人によって随分と差があるようで、現在では100種から1000種類の細菌が、100兆個から1000兆個生育していると言われる。
人によって10倍もの差があるのは、人の健康状態に大きな差があることの一つの証拠にもなるかもしれない。
これらの細菌が約10mもの長さの腸内にあり、重さは1.5~2.0Kgにもなるそうだ。
ちなみに細胞の個数だけで見ると、人体を構成する細胞の数は60~70兆個らしいので、腸内細菌は人体よりも10数倍も多いということになる。
よく健康維持に貢献する細菌を「善玉菌」、害を及ぼす菌を「悪玉菌」というが、それ以外にも普段はどちらにも与しないが、他の菌の影響を受けて作用が変化する「日和見菌」というものがある。
善玉菌:悪玉菌:日和見菌の構成割合は2:1:7となっている。
このバランスが崩れると健康状態に乱れが生じるというわけだ。
日和見菌はまだまだ未知なものが多いそうなのだが、「クロストリジウム・ディフェンシャル」という日和見菌は抗生剤を長期投与されて免疫機能が低下すると悪さをし始め、クロストリジウム・ディフェンシャル感染症(CDI)を発症させる(体外から感染するケースもある)。
この感染症に対する腸内フローラ移植の有効性は確実にエビデンスが確認されている。
以前紹介したように、腸内フローラ移植法が有効であるとの研究結果はほかの多くの疾患でも報告されている。
例えば糖尿病、肥満、メタボリック症候群、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)、過敏性腸症候群、自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、非アルコール性脂肪性肝炎、食物アレルギー、果ては自閉症やパーキンソン病、多発性硬化症などの神経疾患にまで有効であるとの報告がある。
自閉症児と健康児の腸内細菌を比較すると、上記にも出てきたクロストリジウム属(上記のディフェンシャルはそのうちの1種。全部で200を超える種類が確認されている)が10倍も多いことが報告されている。
乳幼児期に多種多量の抗生物質を投与され、腸内細菌の組成が破壊されると、クロストリジウム属の神経毒素が幼い脳にダメージを与えるのではないかと言われている。
腸内細菌叢移植法の状況
腸内フローラ移植に関しては骨髄バンクならぬ、「便バンク」なるものも誕生したという。
なんか語呂の良いネーミングだが(笑)、1サンプル40ドル、週5回の便を提供できればさらに50ドルのボーナスが出て、1週間で250ドルもの稼ぎになるという。
ドナー対象は18~50歳(う~ん、自分は無理かぁ)のみで、病歴、面談、血液検査、便の細菌検査、およびBMI30以下の非肥満であることがクリアされなければならないとのこと。
最低でも60日は施設に通うことが必要だとか。
上記は2015年時点での条件で、現在も同じ基準で続いているかどうかはわからないが、今までトイレに流していたものがこれほどのお金になるのなら夢みたいな話である。
ただし、今のところバンク自体はアメリカとオランダにあるのみで、お金を提供してくれるのはアメリカのバンクだけのようである。
しかも、ドナーとなれるのは提供希望者の4%程度(2015年時点で16名)というから非常に狭き門である。
これほど高待遇をしてくれるのは、アメリカでは毎年50万人がクロストリジウム・ディフェンシャル感染症にかかり、1万4000~2万7000人もの人が亡くなるという深刻な状況があるからだろう。
また、これまでの治療の治癒率が23~31%に比し、90%の治癒率ともなればこの治療法に依存せざるを得ないし、だからこそ健康な便が希少価値となるのは当然のことである。
これほど改善が期待される対象疾患も多く、ドナーも比較的見つかりやすく、治療そのものは簡便であると良い事ずくめの腸内フローラ移植だが、わずかに効かないケースもあり、一時的に効いても効果が持続しないケースもあるという。
また、移植後太ってしまったという笑えないケースもあったようで、図らずも肥満と腸内細菌とは密接な関係があることが証明されたようである。
だからこそ、「便バンク」のような厳密な事前検査が必要なのだろう。
なお、自分自身で腸内フローラを改善するためによく言われるのは乳酸菌の摂取だが、足りない乳酸菌は人によって様々だから、ほかの人には効いても自分には効かないということはよくある話。
どうやって見極めるかはやはり実際に試すほかないそうである。
しかも薬のように即効性のあるものでもないので、2週間程度継続して摂取してみて便通なり、体調なりの変化を確認するしかないという。
人の腸内は生まれた時点では無菌だが、様々な成長過程を経てそれぞれの細菌叢ができあがる。
そして一度定着すると、ほかの菌が入ってきてもそれを邪魔するように攻撃するというから、後から入ってきた菌を定着させるまではかなりの時間がかかるか、ずっと補給し続けなければならないのかもしれない。
移植後に一時的な効果しかないケースはそういった理由からかも知れない。
今後、さらなる分析技術の向上で、検便だけで足りない細菌が分かり、それに見合った腸内フローラカプセルを服用するだけで体調改善される。
そんな夢のような話の実現も案外早いのかも知れない。
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