聴覚情報処理障害(APD)
2023/07/26
聴覚情報処理障害とは、聴力は十分にあって可聴音は聞こえているものの、脳に機能障害があり言語として認知しづらいという障害である。
音声を情報として認識するのが困難となるのだ。
聴力閾値の低下がないために、通常の聴力検査では発見されない。
聴覚に限らず、人には視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などあらゆる感覚には何ら問題はないにもかかわらず、脳内でその感覚が正常に処理されないことにより正しく認知できない障害(感覚処理障害という)を持つ人がいる。
とあるyoutuberの告白で自分も最近その存在を知ったのだが、彼女の場合は触覚に問題があったようだ。
通常、人は立位姿勢の時、重心はくるぶしのやや前に落ちる。
その姿勢が身体の前後バランスをとる時、最も少ないエネルギーで立位を保てるからだ。
しかし、足底の感覚をうまく処理できない彼女は重心が常に踵に来ていたのだという。
本人は普通に立っているつもりで、何の違和感もなく過ごしてきたのだが、重心が常に踵にきていることで、身体は立位を保とうとすると、後方へ倒れないようにするために常に不自然な緊張を強いられることになっていたのだという。
多くの自律神経失調に悩む人々の共通項は身体が過緊張になり、結果交感神経が常に興奮状態になることである。
彼女もまた長年、過緊張状態に自分の身を置いていたため、原因不明の不眠や食欲不振等の不調に悩まされてきたという。
外国人の彼女は母国に里帰りをした際、どういう経緯かは分からないが、その診断を初めて受け、長年の不調の原因が分かったのだという。
現在彼女は正しい重心を受けるための補助具として足底版を使い、常に正しい感覚入力を行うために椅子座位の時は脚を組むことをせず、足底を必ず床につけるようにしているのだとか。
それらによって徐々にではあるが症状は緩和され、熟睡できるようになり、かつてないほど朝の爽快な目覚めを実感しているという。
そのような感覚処理障害の一種として聴覚情報処理障害(APD)がある。
言葉を100%認識できないわけではなく、前後に聞き取れた単語で文脈を想像し返答するなど、うまく対処する場合は幼少時には発見されず、大人になってから判明する場合もあるという。
基本的に人の聴取能力として、周囲に騒音がある中でも雑音を排除して、聞きたい音だけを聞き取る、いわゆるカクテルパーティー効果というものがあるが、それも十分に機能しづらい。
なので、電話対応しようとしても周囲の雑音が反対側の耳から入り、相手の言葉が聞き取りづらくなる。
また、よく音節の似た単語の聞き分けが難しいとか、左右の分離聴や融合聴が困難となる場合には音源の定位が難しくなる場合もある。
脳損傷によって言語そのものの理解に障害が生じる感覚性失語症とは違い、音声では分かりづらくとも、書かれた文字であれば普通に理解できる。
このように知性には問題がないにもかかわらず、音声への反応が遅れるとか、言葉を使ったコミュニケーションだけがうまくいかないなど、社会生活上の不自由が生じやすくなる。
これらは当然、学生であれば授業における学習の障害ともなるし、社会人であれば仕事上の問題となりうる。
端的な特徴を列挙すると、以下のようになる。
〇音は聞こえているが、言葉が聞き取りづらい。
〇騒音化で特に聞きづらい
〇相手の話のスピードが速いとついていけない。
〇複数の人に話しかけられると、どちらの話も分からなくなる。
〇話を長く聞いていると、集中力が継続しない。
〇電話の音が聞き取りづらい。
〇学校での先生の声が聞きづらい。
〇テレビでは字幕がないと分かりづらい。
などである。
このような症状によって周囲から「耳が悪いんじゃない?」「理解できないの?」「仕事をしたくないから聞こえないふりをしている」「バカにしているんじゃないの」などの誤解や偏見が生じることが多々ある。
場合によっては仕事上のミスや、周囲の理解が得られず退職してしまうケースもあるのだとか。
静かな環境であれば普通に会話が成立するため、余計にこうした誤解を受けやすいのだという。
APDに限らず、感覚処理障害が最も問題視されているのが自閉スペクトラム症など、いわゆる発達障害を抱える人たちと言われている。
感覚処理障害と発達障害については切っても切れない関係にあるらしいが、複雑なので次回改めて触れることにする。
感覚処理障害は普通の人の中にも約10%はいると言われており、そのうちのおよそ2%がAPDだと推測されている。
この2%とは実数にしたらとんでもなく多いことになるが、単に「耳が遠い人」と思われている人もいるのではないだろうか。
実は上記の特徴に極めてよく自分も合致するのに気づいた。
自分の場合、幼少時期の服薬の影響で左耳の聴力が落ちているので、他の人より聞こえが悪いのは明らかだが、右耳には問題はない。
だが、人との会話中、聞き取れないことがよくあり、2~3度聞き返しても分からない時は前後の文脈や聞き取れた単語から推測して会話を成立させることが結構多い。
特に騒音時は顕著で、乗車中の会話では左側にいる人の話はかなりの高確率で聞き取れないし、右側にいる人でも耳を近づけないと聞き取ることは難しい。
特に上記の特徴で驚いたのは、テレビは字幕がないと分かりづらいということ。
もちろん全部ではないし、聞き取りやすい声というのもあるので、本当はただ単に「耳が悪い」だけなのだろう。
このように単に耳が悪いだけの人にも共通することが多いので、軽度であれば本人も周囲も「耳が悪いだけ」と思い込んでいる人も多いかもしれない。
基本的には脳の機能障害なので治るということはない。
なので、本人はもとより、周囲の理解を得ながら以下のような過ごしやすい環境の整備が必要となってくる。
〇静かな部屋で、一対一で話をする。
〇周囲の雑音軽減のために、テレビ、ラジオ、音楽などは止める。
〇聞き取れないことは何度も繰り返して聞く。
〇当然ながら、そのために周囲に障害について理解してもらう。
〇言葉だけで説明してもらうのではなく、要点はメモなど文字にしてもらう。
〇話を聞く仕事や、騒音下での仕事はなるべく選ばない。
〇名前、会社名、などの固有名詞や、数字などが間違えやすいので、特に慎重に確認する。
〇電話対応では記入シートを準備して ゆっくりの対応を相手にお願いしながらメモを取るようにする。
〇学生は話を聞いて勉強するよりも本などを利用して目から学ぶ方が効果的である。
〇補聴器とは異なる専用の受信機(製品名:ロジャーフォーカス)を使用する。
〇リモートマイク(製品名:マイクロマイク)が使用できる補聴器を、増幅量を絞って使用する。
以上の特性を理解すると、聴覚処理障害と基本的に合わない職業としては飲食業(注文のやり取り)、コールセンタ-など無線や電話を使う職業、美容師(ドライヤーをかけながらのコミュニケーション)、等々言葉でのコミュニケーションが重要になる仕事は非常に大変だろう。
つまり、聞こえたことを瞬時に判断することを求められる仕事などはなかなか難しいと考えられる。
逆に合う職業とはパソコンで文章作成する作家とか、一人でモノを作る職人だとか、同じ飲食業でも伝票を受けて料理をする調理担当などであればいいかもしれない。
ただ、いずれの職業であっても多少なりとも人とのコミュニケーションは必要となるので、周囲の理解を得ておくことは必須である。
相手によっては仕事ができないこと、やる気のないことなどの言い訳と思い込んでいる場合もあり、専門家による確定診断を得ておくことが重要となるかもしれない。
東洋医学でも、「心火」に障害を受けた時、聴力に問題がないにも関わらず言葉を理解できない、という症状が出る場合があると言われている。
しかし、この場合は先天的な問題というよりは精神医学的な要因が大きいかもしれない。
いずれにしろ、自分が抱えている症状にきちんとした病名があり、認知されているという事実は、不安を抱えている人には心の安泰をもたらすだろう。
もし似たような症状でお悩みの方がおられたら、ぜひとも専門家を受診されたい。
また、あなたの周りにいる聞こえづらくしている人はもしかしたらAPDかもしれない。
もし、困っているようならこういった障害があることを伝えてあげてほしい。
残念ながら根本的な治療方法は今のところないが、上記のようにAPDには聞き取りやすくするための補助用具もあるらしいので、そういった方法もあることを知ることで何らかの助けになるかもしれない。
本当に脳とは不思議な臓器である。
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