生体のための3Dプリンター
2024/10/26
世に3Dプリンターなるものが登場した時、なんと画期的なものができたのだろうかと思ったものだった。
しかし、科学の進歩はとても追いつきえない程に進歩してきているらしい。
今や臓器も作れるというのだから本当に驚きである。
SF映画で見かけるような、ケガにより腕などを無くした人が医療用カプセルに入り横たわるだけで、腕が再生されるようなことが現実に可能となるかもしれないのだ。
最近、といってももう3年ほど前の記事ではあるのだが、発表された3Dプリンターにまつわるトピックスをいくつか紹介したい。
まずは血管を備えた「生きた皮膚」の作成に成功した話。
これは2019年11月の記事だが、既存の人工皮膚の実際は「高品質のバンドエイド」のようなもので、人工皮膚が生体と融合することはなかったという。
その原因はきちんと機能する血管がないことによる。
つまり、栄養が補給されずに人工皮膚の細胞を維持することができなかったということだろう。
そこでアメリカ・レンセラー工科大学をはじめとした研究グループは、技術的なことはよく分からないが、ヒト内皮細胞(血管の内側の細胞)と周皮細胞(内皮細胞を包む細胞)に、動物コラーゲンやそのほかの構造細胞を加えて人口皮膚を作るという実験を行った。
すると、数週間のうちに細胞が連絡を取り合って血管に似た構造が形成されたという。
3Dプリントされたそうした人工皮膚をマウスに移植すると、人工皮膚の血管はマウス自身の血管とつながり始め、血液や栄養がきちんと流れ、人工皮膚を生き続けさせたという。
実際に患者の身体に使用するには、例えば火傷のケースでは血管だけでなく神経の問題や、拒絶反応の問題などクリアしなければならないことはあるそうだが、糖尿病患者や床ずれようなケースでは最適かもしれないという。
ところが、2020年2月にはカナダ・トロント大学等の研究グループでは深い層の皮膚にまで達した火傷、「全層熱傷」に対してある試み行った。
それは深い層の真皮を構成するコラーゲンや、火傷の治癒に必要なフィブリンなどが配合されたバイオインクを、3Dプリンターで直接火傷の部位に張り付けるというもの。
ここでの最高の秘密は「間葉系間質細胞」を混ぜている点だという。
「間葉系間質細胞」というのは人体の中の様々な細胞に分化する前の、あの幹細胞の一種である。
この細胞のおかげで傷の治りは極めて良好で、炎症・瘢痕化・拘縮なども少なく、傷跡も目立たなくなるという。
現在はまだブタによる動物実験の段階だが、今後5年のうちに臨床現場に導入されるかもしれないとのこと。
そうなると、多くの火傷患者にとって希望の治療法となることだろう。
医療現場の様相も変わってくるに違いない。
驚くのはまだ早い。
すでに3Dプリンターを使ってミニ肝臓の作成にも成功しているというのだ。
その実験はブラジルのヒトゲノム幹細胞研究センターによるもので、本物と同じ機能を持ちながら、実際の臓器よりはずっと小さいものの、拡大すれば本物そのままの解剖学的構造を持っているという。
臓器をきちんと機能させるためには細胞のグループ化という作業が必要だという。
同じ臓器内でも部位によって持つ機能が異なるので、それぞれの層や部位によってひとまとまりにさせるということだろうか。
いずれ、そのグループ化によりこれまでにない強固な臓器が作られることとなり、機能としても血液から毒素を取り除いたり、肝臓でしか生産されないアルブミンを分泌したりして、肝臓ならではの機能が備わっているという。
今はまだミニチュア版を作っている段階だが、将来的には移植にも使える完全な臓器の作成も可能だという。
現在移植は平均1~3年待たなければならないとのこと。
特に希望者の多い腎臓は15年近くにもなるとか。
移植を待ち望む人たちへの朗報となるに違いない。
2021年2月にはなんと骨の生成にも成功したという。
骨は他の臓器と違い、無機物が混ざっているために印刷の難易度が増すのだそうだ。
これまで欠けた骨の修復には「自家骨移植」が行われてきた。
しかし、それも修復部位が大きすぎる場合には使えないという欠点があった。
そこでニューサウスウェールズ大学の研究グループはリン酸カルシウムをベースにしたインクを作った。
常温ではペースト状のものだが、ゼラチンなどの溶液に注入されると化学反応を起こし、本物の骨のような多孔質のナノ結晶構造に固まるという。
周囲の細胞を取り込みながら骨の構造に固まると、数週間後には組み込まれた細胞が付着し、増殖を始めたという。
これらはまだ実験台レベルのものらしいが動物実験はすでに始まっているとのこと。
内臓やら、骨やら、皮膚やら、体のあらゆる臓器の再生が可能となれば、多少のケガや病気も大きく克服できることになる。
また、テロメアの短縮を防ぐことができ、細胞の老化をも防ぐことが可能となれば脳もいつまでも維持させることが可能になるかもしれない。
この二つが実現されればまさに不老不死の世界が可能となる。
少なく見積もっても寿命が圧倒的に伸びることは間違いないだろう。
もしかしたら、人の死は脳の破壊でのみ実現される世界も訪れるかもしれない。
まるで、見方を変えればゾンビのような世界でもある。
そうなると、人口問題も含め、何やら恐ろしい世界のなりそうだ。
単なる杞憂に過ぎないだろうか。
科学の進歩は私たちの生活に光明をもたらしてくれるが、光明の向こう側にはどのような未来が開けているのか。
不老不死は人類の夢とも言われるが、全ての人が長く生きながらえる世界は果たして夢の世界になるのだろうか…。
3Dバイオプリンティングの技術の進歩から目が離せない。
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