水アレルギー
2017/06/26
私たち人間の体は、胎児で体重の約90%、新生児で約75%、子供で約70%、成人で約60~65%、老人では約50~55%が水で構成されている。
その体内の水分が10%減少すると脱水症状が現れ、15%以上で生命の危機に陥ることもある。
私たちが生きていく上で欠かすことのできない水。
もちろん体内に取り込むだけでなく、汗という形で体温調節をしてくれるし、シャワーやお風呂などで衛生面を保つとか、時には癒しを与えてもくれる。
スポーツの場面でも身近である。
雨は自然の存在を教えてくれる。
そんな私たちにとって絶対的に必要で、欠かすことのできない水に対してアレルギーを生じるとしたら、その生活はどれほど大変なものだろうか。
実はこの疾患の名前である「水アレルギー」とは俗称のことで、代謝系には何の問題もない。
なので「水分」を体内に取り込むことはできる。
しかし、「水」が及ぼす皮膚に対する物理的刺激に対し(皮膚に浸透するときの作用だろうか)、皮膚が過剰に反応するというものである。
つまり、皮膚疾患に分類されている疾患である。
しかし、自分の涙や汗、唾液にも反応するため、「水に触れない生活」「汗をかかない生活」を送らなければならない。
アメリカ・ユタ州に住むアレクサンドラ・アレン(17歳)さんは、2憶3000万人に1人(現在世界で35例しか確認されていない)と言われる難病、「水アレルギー(水蕁麻疹)」である。
もし、彼女が水泳をしたらたちまち皮膚に異常をきたし、数時間にわたって激痛に襲われてしまう。
最悪の場合はショック症状で死亡してしまう可能性もあるそうだ。
水に触れている時間が長いと皮膚が炎症を起こして赤く腫れあがってしまうため、浴槽につかることなど論外だという。
もちろん雨に降られてもいけない。
一度炎症を起こすと、数時間からひどいときは1週間ほども治らない。
そのため、彼女に許されているのは週にたった3回のごく短い冷水シャワーのみだそうだ。
また、彼女にとっては自分の汗すら命とりなので、汗をかかないように日常生活に注意をしなければならない。
だから、運動はクーラーで空調管理されている場所でしか行えない。
シャワーも冷水のみとなっている。
寝汗も危険なので、特に夏場は昼夜ともに室温管理や、外出など大変だろうと推察される。
彼女がこの疾患を発症したのは12歳の時でだった。
家族との旅行先でお湯を張ったバスタブに入った際、全身に蕁麻疹が出てしまったのである。
内出血や関節の痛みも併発し、それ以来水が体にかかると呼吸困難を引き起こしてしまうことも度々だった。
病院でも原因がわからず、正式な病名が判明するまで時間を要したのである。
本人は
「(炎症を起こした肌は)まるで紙やすりでこすられたような激痛が走ります。次第に痛痒くなってきますが、絶対に掻いてはダメなんです。もっとひどくなって出血してしまうから」
「精神的にも身体的にもとても辛く、厳しいです」
と語る。
涙が頬を伝うことも危険だということで、感情を高ぶらせないように映画やドラマから遠ざかる人もいるようだ。
現在の医療では、残念ながらこの病気に対する対処法はない。
同じ病気の患者はアナフィラキシーショック(急激で重度なアレルギー反応)を起こして死亡してしまう可能性もあり、年齢が上がるほどにその危険性は増していく。
この患者が水で蕁麻疹を起こすのはヒスタミン系ではなく、水に含まれる塩素のような何らかの化合物が要因となって皮膚に物理的刺激が加わるためではないかともいわれている。
そのため、飲む分には彼女の場合は大丈夫なのだが、ひどいケースでは100%のオレンジジュースや牛乳だけで水分を摂取する人もいるという。
H2Oだけだとダメだが、それより大きな分子が混入することで刺激が和らげられるということだろうか。
イギリスのバーバラ(43歳)さんの場合はもう少し深刻である。
彼女に水アレルギーの症状が始まったのは20代の時。
水を飲んだら息苦しく、身体に湿疹が出るようになった。
当初はその程度だったのだが、2013年にはシャワーを浴びてアナフィラキシーショックを起こし、病院へ搬送され、そこでようやく水アレルギーということが分かったそうだ。
彼女もアレン同様雨の日の外出も控えるし、シャワーは週1回、1分だけである。
一般的な石鹸は使えないので、特別なラードのようなものを使用しているとか。
彼女の場合は水を飲んでも反応を起こすため、牛乳や紅茶で「水分」を確保し、水は20年もの間飲んでいないという。
同じくイギリスに住むアシュリー(14歳)の場合は、2008年に扁桃腺の手術を受け、その際に大量のペニシリンが投与されたことがきっかけで発症したのではないかと考えられている。
そんなことがきっかけになることもあるのだ。
彼女の現在の食事はドライフードを食べ、水分はやはり100%オレンジジュースか牛乳しか飲めないという。
前述のアレクサンドラ・アレンさんは語る。
「私は自分がラッキーだと考えるようにしています。他の難病と違って多少なりともコントロールできるし、耐えられるものだから…」と。
非常に前向きである。
しかし、彼女は海洋生物学者になりたいそうだ。
「おいおい、海は大丈夫なのか!」
と思わず突っ込みたくなるのだが(笑)。
水に濡れることなく夢が実現できるのなら、ぜひともかなえてほしいものである。
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