旋毛虫症
2019/06/06
個人的に寄生虫による疾患は、細菌による疾患よりも「ザワザワ感」があり、不快というか、恐れみたいなものを感じる。
それは細菌よりも「生物感」が明確で、他の生物が自分の体の中を動き回ることを想像してしまうからである(意外と繊細でしょ?)。
もしかしたら、映画「エイリアン」みたいな感覚かも知れない(笑)。
日常的には魚介類に含まれるアニサキスが最も有名で、気をつけるべきものだろう。
だが、今回は滅多なことで口にすることはないが、ひょっとしたはずみで口にするかも知れないものから感染する恐れのあるものを紹介したい。
1995年、米アイダホ州エルク・シティ郊外で、ある男性がクーガーを仕留めた。
彼はその獲物を持ち帰り、それでジャーキーを作った。
肉を食塩水に漬け、燻製器で燻煙するのである。
ところがその燻製器は故障していたのか望ましい温度まで上がらなかったそうだ。
「温かい」程度にしか上がらなかったそうだが、とにもかくにもジャーキーを作り上げ、彼はそれを食し、14人の仲間にも振舞ったという。
数週間の後、彼は旋毛虫症にかかり、仲間の14人中9人も旋毛虫症にかかったという。
ジャーキーを調べたところ、旋毛虫の幼虫が中に潜んでいたそうだ。
旋毛虫症の初期症状は腹部の不調、嘔吐、吐き気、下痢、疲労、発熱などで、食べて1~2日で発症するとのこと。
第二段階は筋肉痛、関節痛、頭痛、高熱、悪寒、咳、目の腫れ、皮膚のかゆみ、便秘あるいは下痢、などだそうだ。
寄生している繊毛虫の数によって重症度が変わってくるため、症状が軽い時は自然と消えていき、風邪などの一時的な体調不良と勘違いされる時もあるという。
旋毛虫のリスクがあるのは生の肉や加熱不十分の肉を食べる場合で、豚肉の他、猪、熊、馬、山猫、犬、狐、狼、アザラシ、セイウチなどに注意が必要とのこと。
豚肉は加熱をしっかりしないといけないことは有名だが、熊や馬もそうなのだね。
飲食店で提供される馬刺しなどはきちんとリスク管理されてはいるのだろうが、リスクが0%ということはないので、多少の覚悟は必要かも知れない。
旋毛虫の幼虫は獣肉の筋肉の中に潜んでいて、筋肉が消化されると素早く小腸粘膜の細胞の中に入り込み、成虫になるという。
その成虫が生んだ幼虫は血液やリンパ液に乗って全身に広がる。
この幼虫が人の筋肉の中に入ることで第二段階の症状が現れるのだ。
心筋が侵されると心臓の機能が低下し、死亡する恐れもあるという。
旋毛虫症の予防のためにすべての肉は内部温度が72~73度になるまでの加熱が推奨されている。
豚肉・豚肉製品は厚さ約15cm以下になるように切り、20日間、-15度以下で冷凍し、旋毛虫を殺すことが求められている。
特に狩猟で獲った野生動物は長期間冷凍しても旋毛虫が死なない場合もあるため、加熱調理は完全にしなければならないという。
1897年、サロモン・アウグスト・アンドレーは気球で北極遠征に出かけた。
他の二人の隊員とともに北極点横断を目指した。
残念ながら気球にいくつもの問題が生じ、着陸せざるを得なくなった。
アンドレーたちは絶望的な状況でありながらも、なんとかホッキョクグマを仕留め、食糧を得ることができた。
しかし、彼らは帰還することはなかった。
数年後、ある船の乗組員たちがアンドレーたちの骨を発見した。
残された日記を読むと、アンドレーたちは生のホッキョクグマの肉を食べたせいで旋毛虫症にかかって死んだことがわかった。
残念ながら彼らには飢え死にするか、旋毛虫症にかかるかの運命しかなかったようだ。
あなたがもしアイダホに住む猟を趣味とする男性と知り合いで、彼が燻製作りも好きで、なおかつちょっとずぼらな性格の持ち主だったなら、気をつけたほうがいいかもしれない。
クーガーの燻製を貰ったら是非とも再度加熱して食することをおすすめする。
また、マタギと知り合いなら、熊を食する機会があるかもしれない。
北極旅行でアザラシを提供されるかもしれない。
可能性は高くはないが、ゼロではない。
是非とも心の片隅にとどめておいて欲しい。
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