おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

抗NMDA受容体脳炎

2019/11/26

あなたは映画「エクソシスト」を覚えておいでだろうか。
悪魔に魅入られてしまった人から悪魔祓いを行う人のことをエクソシストと呼ぶのだが、その悪魔に魅入られた人間に起こる様々な症状が実はこの疾患によるものではないかと言われている。
もしそれが本当ならば、また一つ心霊現象が科学的に説明のつくことになるわけだが、まるで悪魔に魅入られたかと思える症状を現す疾患とはどんなものだろうか。
脳神経の神経伝達物質の一つであるグルタミン酸を受けて刺激を伝える受容体としてNMDA型受容体というものがある。
この受容体を攻撃する抗体が何らかの原因によって自分の体の中で作られてしまい、脳の炎症を起こすと同時に脳内の情報伝達を狂わすのが本疾患である。
ちょっと小難しいが、要は脳の中のNMDA型受容体というところが、自分の中で生み出してしまった抗体から攻撃を受け、脳の炎症を起こし、脳内の情報伝達を狂わせるという疾患である。
本来抗体とは外部からの異物を攻撃し、身を守るための役割、つまり免疫機能を果たすものだが、その抗体が攻撃するはずのない自らの身体を攻撃するのである。
その発見は極めて新しく、2007年にペンシルバニア大学のDalmau教授らによって提唱されたばかりである。
その発生率はまだ不明であるが、未知の病因とされている脳炎の中に1%程度含まれるのではと推定されている。
100万人に0.33人という説もある。
日本では若い女性を中心に毎年1000人程度が発症しているとも言われている。
この疾患概念が確立される2007年までに日本において「若年女性に好発する急性非ヘルペス性脳炎」として報告された一群の多くは本疾患と同一のものだったと判明しているとのこと。
ランセットという医学雑誌に掲載されている100例を検討した記事によると、本疾患の100例中91例が女性で、平均年齢は23歳であったという。
気になる症状であるが、下記の点が挙げられている。
1. 前駆症状として非特異的なウィルス様症状(発熱・頭痛・倦怠感など)
2. 精神障害、統合失調症に似た症状(幻覚、自殺念慮、無気力、無感動、抑うつ)
3. 記憶障害
4. ジスキネジア(筋肉の不随意運動)が特に口腔顔面に現れる(舌の出し入れ、口もごもごなど)
5. 意識障害
6. 呼吸障害
7. 自律神経障害
おそらく2.4.5.あたりが「悪魔憑き」のような見た目の異様さや言動となって現れるのだろう。
ニューヨークポスト紙の記者であるスザンナ・キャラハンさんは24歳であった2009年2月のある日、何の前触れもなくいるはずのないトコジラミへの恐怖にさいなまれる感覚を覚えた。
彼女は高い金額を払って自宅を清掃してもらったがそれは無意味だった。
その妄想のような症状が本疾患の始まりだった。
その後、理由もなく仕事への意欲が薄れ、ミスが続いた。
取材相手へ異常な態度をとるようになった。
オフィスでいきなり感情が崩壊し、ぽろぽろ泣き出すかと思えば幸福の絶頂のようにふるまい周囲を不安にさせた。
吐き気に襲われたり、奇声を上げたりと理解不能な振る舞いは続き、身体も、感情も、記憶も、アイデンティティそのものが制御不能となった。
病院で検査を受けるもすべての結果が「異状なし」。
しかし症状はどんどん悪化し、スザンナさんは自分の名前を言うことすらままならない状態となった。
医師たちもあせるばかりだったが、4月のある日、ようやく病気を特定することができた。
普段は細菌やウィルスから身体を守るはずの抗体が間違って自分の脳を攻撃してしまう病気だったのである。
その後、彼女は周囲に支えられ、励まされながら治療とリハビリを乗り越え、約7か月間の闘病生活を経て、ニューヨークポストへ復帰することができた。
577名の患者を対象とした大規模な研究では、394名(69%)が24ヶ月で良好な状態となり、30名(5%)が死亡、残り153名(26%)が軽度~重度の障害が残ったという。
なぜ女性が多いのかはまだ分かっていない。
前述のランセットの調査では98名に腫瘍学的スクリーニングを行うと58名に腫瘍があり、主に卵巣奇形腫であったという。
奇形腫と呼ばれるものは内胚葉・中胚葉・外胚葉、体を構成する要素すべての由来を受けている。この奇形腫をやっつけようと抗体が生まれるわけだが、その奇形腫に脳組織が含まれた時、その脳組織に対する抗体も生じてしまい、それが自分の脳をも攻撃するのではないかと考えられている。
スザンナさんは復帰後、自分の経験を記事にした。
すると反響は大きく、誤診などで正しく治療を受けられていない現実が浮き彫りになってきた。
女性だからという理由で「ヒステリー」と片付けられてしまった人もいるという。
そこで彼女は病気の認知を広げるために「Brain on Fire(日本語翻訳版「脳に住む魔物」)」を出版し、2017年末には映画も公開されることとなった。
実は彼女をモデルにした映画「彼女が目覚めるその日まで」が2018年に全国で上映されたのだが、残念ながら岩手では上映されなかった。
また、同じく「抗NMDA受容体脳炎」の患者をモデルにした映画として「8年越しの花嫁」というものもあるようだ。
興味のある方はぜひ映画や著書をお読みいただきたい。
それにしても、自分を守るためのしくみが自分を攻撃する自己免疫疾患とは、なんと厄介な病気だろうか。
そして、実態がわからないときは心霊現象と見られていたものも、解明されてみれば病の一つであると教えてくれた印象深い疾患である。

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