おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

帯状疱疹後神経痛

2017/05/08

「痛くて痛くて夜も眠られず、そんな夜が続いて3日目の夜には疲れきってどうにか眠れるという日々の繰り返しでした」

「痛む脚がどうしようもなくて『この脚何とかして!』と自分で自分の脚を殴ったりしていました」

「痛みがひどいときは排尿するだけで痛みが増すためトイレに行くことも辛かったです」

そんな痛みの訴えを受けたのは2004年の梅雨が明けてまもなくの夏であった。

Hさんを苦しめていたのは帯状疱疹後の神経痛であった。

彼女が帯状疱疹をわずらったのは2002年3月のことであり、以来2年4ヶ月に及ぶ苦しみであった。

その彼女の苦しむ姿を見かねて知り合いが何かいい方法はないかとインターネットで検索し、たまたまうちのHPを見つけたのが治療に通ってくださるようになったきっかけだった。

 

帯状疱疹後神経痛は一度かかると完治は難しいと言われている。

一生その痛みとうまく付き合っていくしかないと指導されることが多い。

しかし、彼女の場合痛みのルートが胆経ラインにすっかり一致しており、東洋医学的には経絡病変がハッキリしていたこともあり、「何とかなるのでは」という思いがあった。

不思議なことに後に聞いたところでは医学的根拠をなんら持ち合わせていない彼女も初めてうちを訪れた時に「ここで良くなるかも」そんな気がしていたと言う。

他県に住む彼女は最初の1週間は盛岡に泊まりこみ、その後は週に1回県境を越えて来院し治療を続けることとなった。

痛みの中心は左下腿外側であったが、範囲としては大腿部まで広がっていた。

その大腿部の痛みが初回の治療で消えてしまい、1週間のうちに全体の痛みは約半分に減った。

この1週間の治療で痛み具合に変化があったことがその後の治療継続につながって行ったように思う。

決して順調な経過をたどったわけではない。

治療直後に逆に痛みが増強し、数日すると今度はもう治ったのではないかと思うくらいに痛みを感じなくなるという痛みの波が大きくうねる時期もあった。

しかし、全体として軽減していくことを実感していた彼女は治療継続し、年があけて2005年初頭には月に2~3回、夏頃には1~2回の来院頻度で過ごせられるようになった。

そして2005年10月以降は月に1回のみの来院、2006年以降は本疾患理由では来院されていない。

2017年現在、全く痛みもなくなり安定して過ごせているとのことであった。
帯状疱疹にかかる前、彼女の寝るときの姿勢は仰向けであり、若い頃には母親が死んでいるのではないかと疑い確認に来るくらい朝までほとんど動かないで寝ているという話であった。

しかし神経痛にかかってからは仰向けに寝ると痛みがひどくなる為に左脚が上になるように横向きで寝ていた。

そんな彼女も今では再び仰向けのままで朝まで眠れるようになったという。

 

何故彼女は治癒し得たのだろうか。

当院では彼女の治療を開始した当時は、毫鍼での浅刺しによる経絡治療を行っていた。

2005年の春からは鍉鍼(ていしん)と呼ばれる刺さない鍼に変更し接触鍼による経絡治療を行っている。

気の調整を意識したこの治療は西洋医学的観点に立つ刺激針とは異なるものである。

使用している針が刺さない鍼である以上、変化をもたらしたものは鍼の物理的刺激でないことは明らかである。

西洋医学的には帯状疱疹は子供の頃にかかった水疱瘡のウイルスが神経内に潜んでいて、疲労などにより抵抗力が弱まったときに暴れだし発症するといわれている。

ウイルス性疾患は東洋医学では風邪(ふうじゃ)と考えられており、鍼灸医療においても対処すべき邪であり、また対処できる邪として認知されている。

また、東洋医学はその本筋を生命力を高めることで多くの疾患を治癒させしめる医学である。

さらに、本ケースのように経絡病症が明らかな時、子午治療などの経絡バランスを整える手法も適切な手技として使われる。

以上のことから、彼女の場合も邪の処理と生命力強化(西洋医学的には免疫力向上と言うことになるだろうか)、並びに子午治療による経絡バランスの整いによって治癒し得たものと考えられる。

 

改めて「気」の存在を意識し、その重要性を思い知らされ、人体の持つ不思議さを感じさせられたケースである。

彼女がその後に話していた言葉がある。

「もしあのままの生活を送っていたら自殺していたかもしれない」と。

一瞬「大げさな」と思ったが、考えてみると痛みは本人にしか分からないものである。

実際、帯状疱疹にかかっている時は他覚的にも発病が分かるため周囲の理解を得やすいが、一旦見た目に治癒した後、帯状疱疹後神経痛に移行してしまうとその痛みの訴えに徐々に周囲の理解が薄れていき「気のせいでないの」等と言われ、うつ状態に落ち込み更に症状を悪化させる場合があるようだ。

彼女は同じ苦しみを抱えている方に対して少しでもお役に立てたらと言いこの掲載も快く了承してくれて、また実体験を話してもよいと言ってくれた。

鎮痛剤がきかず、西洋医学での限界を感じておられる方は、東洋医学の深遠なる世界を試してみてはいかがだろうか。

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