味覚性多汗症(フライ症候群)
2024/12/02
味覚性多汗症?
字句から推測するに、ある味覚が刺激となって大量の汗をかく症状かと思われたが、調べてみるとなかなかに大変な疾患であるようだ。
本疾患は食事をすると、通常では考えられないほどの量の発汗をするものである。
そのこと自体がひどい痛みをもたらすとか、機能不全を起こすということはあまりないので、健康上は比較的軽症なものと捉えられている。
しかし、食事ごとにそのような症状が現れるので、食欲の減退や精神的なストレスが二次的な健康被害をもたらすことがあるという。
症 状
食事をすると鼻、額、頭、耳の下など顔面を中心に発汗する。
発汗部位はそこに限局され、手足、脇、背中などの発汗は味覚性多汗症には該当しないとのこと。
また、皮膚が赤くなる、唾液がたくさん出る、涙が出る、鼻水が出るということも多く、まれに痛みが伴うこともあるという。
これらの状態はまさにテレビで激辛のものを食べたときにタレントらがあらわす表情そのものである。
つまり、健常人でも辛い物を食べると現れる症状であり、味覚神経が刺激されることで起こる生理現象だが、その重症度に3つのレベルがあるという。
〇辛味や酸味など刺激の強いもので大量の汗が出る。
〇刺激性のない甘いものでも汗が出る。
〇何を食べても汗が出る。
これは確かにつらいものがある。
カレーなどを食べた際の発汗であれば「辛さに敏感」で済むかもしれないが、何を食べてもとなると体調不良を疑われかねない。
周囲の理解も必要となってくるだろう。
非常にまれなケースで、食事のたびに耳から水が出るというケースもあるらしい。
これは以前、TV番組「世界仰天ニュース」でも取り上げられていたようだ。
埼玉の中学生、将吾さんがある日、食事の際に耳に違和感を覚え指で探ってみると、中が随分と湿っていた。
プール後だったため、まだ水が入ったままだったのかと気にしなかったが、翌日もまた同じ症状が。
聞くと姉にも同じような症状があるということで、その後は深く意識もせず過ごしていたが、徐々に水の量が増え始め、高校生になるころには次第に耳から垂れて頬に流れるまでになった。
時にランニング途中にも耳から水が出た。
厄介なのは授業中で、耳に強烈なかゆみが出て事業に集中できないこともあったという。
だが、一日の大半は無症状で過ごすことができ、やはり食事中に最も激しくその症状が出るとのこと。
なので、彼は綿棒が手放せない状態となるが、ある日友達から言われてしまう。
「飯食っているとき、いつも耳かきしているけど、みんなから汚いって言われているぞ」と。
これはショック。
みんなにそんな風に思われていたとは。
これで人前ではなかなか綿棒を使えなくなってしまった。
色々調べてみるもなかなか原因がわからない。
受診しても医者も分からないという。
ついにはイヤホンで音楽を大きな音で聴いただけでも水が出てくるようになった。
専門学校に進学したが、この症状が気になって友人と外食もできない。
思い余ってSNSに書き込んでみると、意外にも同じ症状で悩んでいる人がいたという。
この書き込みを見た東京女子医科大学東医療センターの門脇医師からからメッセージが送られた。
門脇医師が言うには「フライ症候群」の可能性があるというのである。
フライ症候群とは、耳下腺や唾液の分泌に関わる神経が損傷した後に発生しうる、病的な発汗や発赤といった症状を呈すものである。
そのような現象が起こる原因は、例えば耳下腺付近に外傷を負ったとき、損傷した耳介側頭神経が治癒していく過程で、再生した神経がつながった先が耳下腺でなく、汗腺につながったために、食事をすると「唾液を分泌せよ」という指令が、発汗という結果として現れるのである。
耳下腺腫瘍の摘出手術を行ってしばらくしてから発症することも多いため、手術後の合併症の一つとして数えられている。
なので、食事に伴って発汗や発赤を起こすのは手術を行った側の耳の下あたりだけに限られる。
味覚性多汗症は基本的に交感神経の過剰な反応によって引き起こされるものだが、フライ症候群は神経再生の際に誤った接合の結果だとすれば病因は別物だが、食事に伴って発汗、発赤するという病態は同じことから、味覚性多汗症と同義として、あるいはその一種に分類されている。
基本的にフライ症候群での発汗は顔面や耳の下周囲に限られるとされているが、門脇医師によると、耳から水が出る症状も世界的には非常にレアなケースとして認められているという。
運動時や大音量が刺激になるというのも交感神経に刺激によって生じるということだろう。
また、汗ではなく耳からの水がでるというのもその部位の分泌腺が異常に刺激されたということなのだろう。
いずれにしろ、交感神経の過敏な反応で耳から水が出るという不思議な現象が起こる疾患も世の中にはあるということだ。
原 因
〇交感神経の過剰な反応
〇神経再生時の誤接合
外傷や耳下腺腫瘍摘出術などによって損傷した耳介側頭神経が再生する際、耳下腺ではなく汗腺に接合したために起きるケース
〇胸腔鏡下交感神経遮断術による副作用
胸腔鏡下交感神経遮断術とは発汗のコントロールしている交感神経を内視鏡を使って切断する手術で、手掌多汗症に対して最終手段として用いられる治療法である。
なぜ、汗を止めるための手術をして、顔から汗が出るようになるのか。
汗は体温調節の役割を果たしているので、手汗を制限すると代償として別な部位からの発汗が促されるようになる(代償発汗)。
その多くは背中、胸、大腿部に起きるが、50%の確率で味覚性多汗症を引き起こすという。
〇糖尿病
糖尿病によって起こる末梢神経障害による発汗異常。
治 療 法
神経再生の誤接合で起きた味覚性多汗症は完治が難しく、基本的には対症療法となるそうだ。
症状を抑えるための治療として、ボトックス注射が行われる。
これはボツリヌス菌が作るボツリヌストキシンという毒素を使って、神経伝達をブロックする方法である。
1回の注射で平均6か月程度の持続効果があるという。
その他、服薬で交感神経を抑制するものもあるそうだが、汗が抑制される代わりに全身的な交感神経の作用も抑制されるので、いくつかの副作用もあるという。
味覚性多汗症の場合は軽度であれば刺激物を食べなければ発汗を起こさないのであまり薬の服用はしない方がいいとのこと。
このケースはもともと神経が過敏であるところにメンタル面が強い影響を与えている可能性もあり、そのような場合は精神不安の除去も大切とのこと。
もともと汗をかきやすい体質の人が、その発汗を気にすることで更なる「精神性発汗」を促す結果となる。
「食事=汗」という「予期不安」が頭の中で固定されると症状を悪化させてしまうので、その不安の除去が大切になる。
糖尿病が原因の場合は糖尿病薬や抗コリン薬などで症状を抑えることができるという。
食事の度に大量の汗が出る。
本来、楽しく、うれしいはずの場が、ストレスとなり、場合によっては義務感だけで食べるということもあるかもしれない。
人の身体というものは不思議に満ち溢れているが、時に厄介なことを引き起こしてくれる。
しかし、神経の過敏な反応ということであれば、自律神経失調症の一症状ともいえる。
であれば、鍼での対処も可能と十分考えられる。
もし、お悩みの方はぜひ一度試してみてはいかがだろうか。
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