ミソフォニア
2020/03/18
ある特定の音に対して嫌悪、怒り、憎しみ、逃避など否定的な感情を感じる障害である。
脳の前帯状皮質、島皮質の神経機能障害ではないかと考えられている。
ミソフォニアで最も嫌悪される音としては以下のものが挙げられている。
鼻水のすすり、咳、あくび、くしゃみ、そしゃく、ゲップ、飲み込み、唇ならし、歯磨き、呼吸、会話、バブル破裂、笑い、いびき、義歯のカチカチ、タイピング、鼻歌、口笛、徒歩、反復的な音、等々。
もちろん、これら全ての音に全てのミソフォニアの人が反応するわけではないらしい。
しかし、ほとんどが人と関わりを持つ中で日常的に出会う音ばかりである。
これらの音に極めて強い不安や怒りを感じ、それを回避する行動に出ることが多いため、社交性の低下につながりやすくなっているという。
また、中には音だけでなく、他人の体の一部の反復的な動き、そわそわすること、横目で見たような動きなど視覚刺激に影響を受ける人もいるようで、見たり聴いたりしたことを衝動的に真似してしまう人もいるという。
この「真似る行為」というのは、自身が感じた敵意や反感を和らげる効果があるそうだ。
しかし、真似をされた方はおそらく「小バカにされた」と感じるだろうし、いずれにしても対人関係の妨げになることは間違いない。
他人の言動を真似るといえば、2013年6月8日付「トレット症候群」の症状の一つに「反響言語」といって、他人が発した言葉を繰り返すという症状があった。
https://ameblo.jp/helpjiritusinkei/entry-11547344547.html?frm=theme
上述の脳の領域はそのトレット症候群にも関与している領域なのだそうで、「真似る」「反響する」症状に関係しているのかもしれない。
有病率については種々の研究があるようだがはっきりしない。
2014年の南フロリダ大学で行われた大学生を対象にした調査では、500人程の中の20%がミソフォニアのような症状を呈したという。
どの程度の症状までをミソフォニアとしたのか、その診断基準は分からない。
どこまでの不快感を対象とするのか。
嫌悪する音の種類がどれほどあると診断がつくのかも曖昧である。
おそらくきっちりとした線引きは難しいのだろう。
しかし、500人中の20%という有病率。
単純計算すると、身の回りの5人に1人はミソフォニアということになってしまう。
その有病率が妥当かどうかは分からないが、少なくとも予想以上に他の人にとっては何でもない音に対する不快感、嫌悪感を抱く人は多いということなのだろう。
ミソフォニアが意外なほど多いのではないかと思わせるのが、ネットで検索すると自身がミソフォニアであることをカミングアウトするサイトが結構出てくることだ。
あるサイトに記載されている内容をかいつまんで紹介したい。
あるサイト主は他人の「鼻をすする音、喉を鳴らす音、咳、音として聞こえる息全般、あくび、ペンが紙越しに机に当たる音、キーボード音、カチカチ音、蹴伸びの声、癖のある笑い声、机を爪先でたたく音」などが本当に嫌いで、怒りが抑えられなく、無意識に睨みつけるのだとか。
あまりの怒りに泣き出してしまうとか、「ぶっ殺してやる」と思わず小さな声でつぶやいたりもしていたという。
それは小学校の頃から始まり、とにかく人がいる場所が苦痛になるとのこと。
家庭でも同様で、母親にはイライラした感情のまま文句をぶつけることができたが、基本的には音楽を聴くか、部屋に逃げ込んでいた。
風邪をひいて辛そうに咳をしていてもその怒りは変わらない。
音がある閉じた空間に行くことが辛く、大学に行きたくなかった。
教室内では音源はだいたい振り向かずとも特定でき、「音がうるさい人間ブラックリスト」があった。
電車内では音楽が手放せず、イヤホンは予備を準備しておく。
麺をすする音も許しがたいが、熱いものなら仕方がないとしても、水、ビール、ゼリーなどすする必要もないものまですする音を立てて食べる人間には怒りも感じるが、気持ち悪いとも感じる。
近しい人に「その音をやめてくれ」とか言っても「神経質」「気にしすぎ」と言われ、そんな他人が立てる音に嫌悪感を抱くのは重箱の隅をつつくような自分の悪い性格に起因しているのだと思っていた。
だからブラックリストの人間を好きになろうとしたこともある。
二人で話をしてみると、音以外には欠点も見当たらず、面白い人だったりする。
その度に自分は音だけで人を判断しようとしていたと罪悪感をもった。
しかし、その人が立てる音が苦痛なのは変わらなかった。
相手の立場で考えてみようともするが、反応してしまうのは反応してしまうのである。
耳栓は音量を小さくはしてくれるが、ゼロにはしてくれないので音楽が最も有効だった。
聴きすぎてたまに耳や頭が痛くなったりもするが、その方がまだいい。
イントロやエンディングのフェードイン・フェードアウトと、曲と曲の間は恐怖なので、必ずイントロから飛ばす曲をかけ、エンディング近くになったら次の曲にステップするという聴き方をしている。
音だけでなく、ちらちら見てくる人間、貧乏ゆすり、ガムを噛むときの顎の動き、ペン回し、髪の毛をいじる手など、視界に入り込んでしまう動きのある動作にも不快な音を聞いたときと同じ反応をしてしまう。
こうなってしまったきっかけは、自分としては幼稚園のころの食事の際、クチャ音を立てると父親に必ず注意されたので、姉妹間であら探しをしていたことだと思っている。
相手がクチャ音を立てると、「お父さんに言っちゃおー」と言えるので、常に耳をそばだてていたのだ。
しかし、今となっては自分が父親に口うるさく文句を言うようになったのだが・・・。
彼女がこの「ミソフォニア」という病名に行き着いたのは彼氏さんのおかげだったそうだ。
彼氏に「普通は脳が必要のないノイズをfilter outしてくれるのに、それができておらず異常に反応してしまうのは何かしらの神経症なのではないか」と言われたことでネット検索して、はじめは「聴覚過敏」を知り、ついには「ミソフォニア」に行き着いたとのこと。
家族にしても、彼氏さんにしても彼女の訴えを受け止め、理解しようとしてくれたことは、彼女にとって幸せなことだったろう。
ちなみに、ミソフォニアは主に人体が発する音に嫌悪・怒りを覚えるのに対し、聴覚過敏は掃除機やドライヤー等の機械音、チャイム・サイレン・ドアの開け閉め、人声のざわめき等々、身の回りのあらゆる騒々しい音を嫌うという違いがある。
なので、対処法は自ずと異なってくる。
ミソフォニアは嫌悪感を抱く音を消すために音楽を聴くとか、あえて補聴器に似た音源発生器を耳に付けて雑音を加えるという対処法がある。
一方、聴覚過敏は身の回りの音全般を小さくしていく必要があるので、耳栓をするなどで遮音する方法がとられる(聴覚過敏でも特定の音が苦手な場合は音楽を聴くという方法も取られることもある)。
病気の存在を知らなければ周りはもとより、本人でさえも「これは自分の性格のせい」と思い込んでしまうこの病気。
それは自己否定にもなり、余計に人格形成に悪影響を及ぼすことになりかねない。
ほかのサイトでは小学校の昼食時に、先生の食べ方が気になったところから徐々に嫌悪する音の対象が広がっていったケースもあった。
上記のケースでもそうだが、なにかきっかけがあって始まった症状でもあるので、これは治癒改善が可能な疾患なのではないだろうか。
実際、報告数は少ないようだが、カウンセラーや認知行動療法で改善したケースもあるという。
「他人の人体から発せられるあの音が死ぬほど嫌い」という方は音を遮断するという対処法も必要だが、根本的に治す方法も探してみてはどうだろうか。
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