ピック病
2021/09/03
ちょっと衝撃的なある記事を読んだ。
ピック病という病気を患っておられるお父さんと介護する娘さんの「父と私の事件簿」である。
正直言って、なかなかの壮絶さに途中で読むのをやめたぐらいである。
その記事のアドレスはこのコーナーの最後に載せているが、まずはピック病についてあらかじめ予備知識を持っていただきたい。
そのうえで、その記事を読まれるかどうかは各自でご判断いただきたい。
ピック病は若年性アルツハイマー病と同じく、40~60代と比較的若い世代が発症する「初老期認知症」の代表的疾患である。
現在、日本では1万人以上のピック病患者がいるとされている。
前頭葉と側頭葉が萎縮してしまう「前頭側頭型認知症」の一つで、「ピック球」と呼ばれる脳の神経細胞の塊が前頭葉や側頭葉に生じることで発症するという。
アルツハイマー病は「海馬」という主に記憶を司る部分を中心として、脳全体が萎縮していくのに対し、ピック病は前頭葉・側頭葉が萎縮していくという違いがある。
前頭葉は大きく言うと情動を司るエリアなので、ここの障害では人格障害が起きやすくなる。
側頭葉は言語機能に関わるとエリアなので、言語障害が起きやすくなる。
具体的な症状は以下のとおりである。
【 前頭葉の障害 】
〇精神的柔軟性や自発性の低下。しかし、IQの低下は起きない。
⇒頑固になり、怒りっぽくなる。
時刻表的行動(※1)が現れる。
物事に対する意欲が失われていく。
一方で、障害の認識は無い。
〇会話の劇的な増加、または減少。
〇社交性の増加、または減少。
⇒周囲を無視する、バカにするような態度を取る。
常同行動(※2)・反響言語(※3)が現れる。
診療の拒否や不真面目な応答。
自己中心的な行動を取るようになる。
〇危機管理や規則の順守に関する感覚の障害。
⇒信号無視、万引き、盗難、他人の家への侵入、暴力、不潔でも気にならないなどの社会的ルールを無視する。
〇障害のエリアによって独特の性行動を引き起こすとか、逆に性的興味の減少を引き起こす。
⇒セクハラ、痴漢行為など。
【 側頭葉の障害 】
〇言語、聴覚の障害
⇒失語症(言葉がうまく話せないくなる)、言語理解力の低下(相手の話がわからない)
〇記憶障害
※1時刻表的行動:散歩など決まった時間に行う(決められた時刻表に従うような)生活をするようになる。この行動を止めようとすると怒り出し、暴れる可能性もある。
※2常同行動:毎日同じものを食べ続けたり、甘いものや濃い味付けなど嗜好の好みが変化したり、同じ言葉を何度も繰り返したりする。
※3反響言語:他人の言葉をオウム返しに話す。
物忘れなどの認知機能の低下もいずれ訪れるが、それよりも当初はそれまで穏やかだった人が怒りっぽくなるとか、人の話を聞かずにしゃべり続けるようになる、逆に人を無視するようになる、自発的に行動することがなくなる、社会的ルールを無視する、などの人格障害が現れるのがピック病の特徴といえる。
物忘れなどの認知機能の低下は本人も気づきやすいが、人格障害は単なる「性格の変化」と誤解されて医療機関へ行くのが遅れがちになるそうだ。
仮に周囲がその異常性に気がついたとしても、本人にその自覚がなければなかなか受診には結びつきにくいかも知れない。
また、医療機関を受診しても、統合失調症やうつ病などと誤診されるケースもあるという。
前頭葉・側頭葉になぜピック球ができるのかはまだわかっておらず、薬もまだ開発されていない。
盗癖や異食などの異常行動を含む症状には、ドーパミンの抑制作用のある薬が使われ、意欲の低下、落ち込みなどうつに近い症状には興奮性を高める薬が処方されるなど、対症療法的な治療にとどまっているようである。
ケアについては毎日同じ道を散歩する習慣を付けるなど、「良い常同行動」を利用する方法がある。
本人の順序を邪魔しないことで精神的な安定が得られることを理解しておくことが大切である。
また、万引きなどはあらかじめ料金の前払いしておくとか、散歩途中の店などに事前に説明しておくことで問題を未然に防ぐことができる。
いずれ周囲の症状への理解が負担軽減になるという。
さて、冒頭で触れた「父と私の事件簿」の記事は、簡単に説明すると次のようなものである。
ピック病を患った父親が散歩に出かけ、その後帰って来た気配がするのだが、2階へなかなか上がって来ない。
それを不審に思った娘さんが、下に降りてきてみたら、父親が血だらけのまま平然としている。
あたりには3箱分もの血まみれのティッシュが散乱している。
よくよく見ると、父の額からは骨も見えている。
しかし、父は「どうってことない」と平然としたままである。
とりあえず救急車を呼び病院へと運んだ。
どうやら散歩途中で転倒し、額を大きく裂傷したが、剥がれた皮膚を自分でハサミを使って切ってしまったらしい。
結局、人工真皮を使って皮膚の再生術を行ったが・・・、という記事である。
詳細を知りたい方は下記へどうぞ。
階段を下りると血に染まったティッシュの海…振り返った父の額は骨だった | ヨミドクター(読売新聞) (yomiuri.co.jp)
このように突拍子もない行動を突発的に行うのがこのピック病の特徴とのこと。
そのため、ほかの認知症と比べて、早い段階での施設入所などを勧められるそうである。
一口に認知症といっても、このようなケースもあることを忘れてはならない。
繰り返すが、症状への理解が適切な対処への近道である。
今後ますます高齢化が進む中にあって、アラシスの自分としてはとても他人事ではない。
あー、ピック病になったらどうしよう。
頑固で怒りっぽく、スケベなじいさんになりそうで怖い…。
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