デトックス
2023/05/17
最近の健康法にはよく「毒素・老廃物のデトックス」が謳われることが多い。
デトックスなる横文字が使われるので、何やら凄いことをやっている気にもなる。
しかし、その老廃物の排出に最も大きく関与するのは排便である。
老廃物の実に75%にも上る排出は排便によって行われるそうだ。
次は排尿の20%。
つまり、老廃物の排出の95%は日常の排泄によって行われているのである。
東洋医学においても排尿・排便の状態は全体的な健康状態と大きなかかわりを持つととらえられている。
単純に考えても消化器系統、代謝系統の好・不調を示していることなので、それらを重要視することには十分に意味がある。
逆に言えば、便秘状態などを放置して「デトックス~」などと浮かれていても何の意味もないということでもある。
ちなみに、一般的に「デトックス」と呼ばれる行為で排出されるのは汗が主なものだろうが、それによる老廃物排出効果はたったの3%である。
もちろん、その「3%が大きな意味を持つ」とも言えるが、そうやって追及していくと、そもそもデトックスの定義って何?
毒素って具体的に何を指しているの?
話題の宿便って本当にあるの?
そんな様々な疑問がわいてこないだろうか。
身近で言われることが多いけれども、実は内容があまりよく分かっていないそれらを今回は見ていきたい。
様々なサイトを見ると、排尿・便をも含めてデトックスという言葉が使われているところも多いが、本来、この言葉はdetoxification(解毒)の短縮形であり、
「薬物中毒では解毒剤が使われる。薬物依存症では薬物を身体から抜いていく治療を解毒(detoxification)(Wikipedia)」
と呼ばれている。
つまり、デトックスとは医学的に薬害に対する解毒治療のことを指しているのである。
しかも「生活上、体内に人体に悪影響を及ぼす化学物質(重金属や合成化合物、有害な薬物)が蓄積されるとされ、これを排出させようと様々に言われているが、英国国民保健サービス(NHS)は2009年に、その必要はないと広報した」そうである。
どういうことかというと、巷で流布されている「生活の中でたまると言われる毒素の排出は必要ない」ということのようである。
そもそも、人の体には腎臓や肝臓の働きによって体に悪影響を与える物質は体外に排出する機能は備わっている。
その機能以上に排出が必要な状態ならば、それは前述のごとく治療が必要な状態であり、健康術の範囲外のものとも言えるのである。
「毒素」とは「食品添加物(保存料、人工甘味 料、着色料、乳化剤、残留農薬など)、水道水に含まれる鉛、発がん物質のトリハロメタン、空気中や雨に含まれる大気汚染物質、車の排気ガス、紫外線、タバコの煙など」を指すとしているサイトもあるが、デトックスによってそれらがどれほど排出され、どの程度健康に寄与したかを示す医学的見解はどこにも見当たらない。
あるとしたら、自分が教えて欲しい。
とはいうものの、デトックスを全否定するのも何やら大人げない。
ここは「快便」に焦点を当ててみていきたい。
そうなってくると、これも最近ネット上のあちらこちらのサイトの広告で、「宿便を出したら驚くほどやせた」というのが目につくが、「宿便って何?」という疑問もわいてくる。
ネット上では「長年、腸壁にこびりついた古い便」と説明されている。
古い便だから、これが排出されるとものすごく臭いし、中には「緑色になっている」と説明しているサイトなどもある。
この宿便も以前何かで触れたが、医学的にはその存在は認められていない。
実際に宿便の存在を確かめるために大腸内視鏡を使った人もいる。
当然ながらその存在は認められなかった。
医学的に考えて宿便の存在を認められない理由はこうだ。
腸壁の細胞というのは、体表の皮膚の細胞と同じでどんどん再生されており、皮膚でいう垢のような腸壁細胞の死骸が糞便の15~20%を占めている。
そのように日々再生されている腸壁に糞便が長年に渡ってこびりつけるはずがないからだ。
例えば落ちにくい塗料で手が汚れて、石けんを使ってもなかなか落としきれないとしても、数日もすればその汚れはなくなる。
これは皮膚の細胞の再生により塗料のついた古い細胞が垢となって落ちるからである。
当然、数日間程度であれば留まる糞便もあろうが、基本的に長期にわたって腸壁にこびりつくような形での宿便はありえないのである。
あるDrは腸管に何らかの構造的な変化が起きてそこに便が留まる可能性を考察していた。
それであれば確かに一定期間とどまる可能性は考えられる。
しかし、とどまった糞便の腐敗が続けば何らかの炎症を起こしそうだし、それはもう紛れもない病気であり、もともと健康体の人が「宿便を出せば痩せられる」などというレベルの話ではない。
なので、個人的には宿便云々の話はあまり信じられない。
しかし、快調な排便自体は前述したようにとても意味のあることであり、便秘症の方には是非とも毎日快便できる腸内環境を作っていただきたいと思う。
快便のためには何をさておいても食物繊維の摂取が大切だろう。
食物繊維には水に溶けやすい水溶性食物繊維と水に溶けにくい不溶性食物繊維がある。
以下はその代表例である。
不溶性食物繊維
主にセルロースで、食べ物としては玄米、レタス、キャベツ、さつまいも、乾燥きくらげ、豆類(インゲン、ひよこ、あずき、えんどう、紅花インゲン)、おから、シソの実、栗、ヨモギなどである。
噛みごたえがあり、よく噛むことで満腹感が得られやすい。
腸内で水分を吸収して膨らみ、便のかさが増し、腸壁を刺激して蠕動運動を促すとされている。
水分が不足すると、腹部膨満感が強くなり、便が硬くなりやすいので、水分摂取にも同時に注意しなければならない。
水溶性食物繊維
主にアルギン酸ナトリウム、ペクチンなどで、海藻類、納豆、オクラ、熟した果物、玉ねぎ、にんにく、エシャロット、かんぴょう、とうがらし、豆きんとん、切干大根、プルーン、柚(果皮)、穀類は大麦、オートミール、ライ麦パン、パスタ等々である。
ネバネバした粘性が強く、腸内をゆっくり移動する。
それこそ体に不要なもの、有害なものを吸着して便として排泄してくれる。
水溶性食物繊維は善玉菌の餌にもなるので、きちんとこれらを摂ることでより腸内環境を良好な状態に保つことが出来る。
血糖値の上昇を防ぎ、コレステロールの抑制にも役立つとされている。
これら不溶性と水溶性のバランスがとても重要らしく、不溶性:水溶性=2:1 で摂取することがもっとも腸内環境を整えるのに良いとされている。
これら食物繊維を含む食べ物、特に野菜を先に食べておくことで肉などの動物性脂肪をくるみつつ、体外に排出しやすくなるので、食べる順番も意識すると良いとされている。
あるサイトでは、長々とデトックスについて語ったあと、ヨーグルトとやら、お茶やら、様々な製品を列挙し、何に効くのかを紹介していたものもあった。
そのサイト運営者が個人的に善意で紹介していたのか、メーカーから見返りをもらって掲載していたのかはわからないが、ああいうものを見ると、「デトックス」というものが「健康ビジネス」として一定の市場を確保していることは間違いないようだ。
もちろん、嗜好品やちょっとしたとした補助食品的に軽い気持ちで楽しむ分には何ら問題はない。
しかし、それらにある意味強迫観念的なまでにのめり込むことのないことを切に願うばかりである。
快食・快便、快眠、そして運動。
単純にそれらがうまく機能さえしていれば、それだけで十分な健康を手にすることはできる。
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