テロメア
2022/12/15
ヒトの細胞は、以前は約60兆個と言われていたが、最近では平均して37兆2000億個という数字がより正確に近いのではないかと言われている。
(2018年の「不死細胞」という記事で60兆個と紹介させていただいたが、科学の日進月歩の中で認識は変遷していくということでご勘弁願いたい)
その細胞が日々分裂を繰り返し、入れ替わりながらヒトという個体を成立させている。
しかし、その細胞が生涯分裂できる回数というのはあらかじめ決められている。
いかに良好な環境に置かれたとしても、その回数以上には分裂を繰り返すことはできないとされている。
その分裂回数の限界をヘイフリック限界という。
ヒトには260種以上もの細胞があり、それらが一様の分裂能力を持っているわけではない。
造血細胞のように個体の死ぬ直前まで分裂を続ける細胞もあれば、心筋細胞のようにある程度まで分裂をして臓器を構成したあとは分裂を起こさない細胞もある。
それら特殊な細胞以外で、定期的に分裂すべき細胞が限界を迎え分裂できなくなった時、それは個体の死を意味する。
つまり、分裂の限界が寿命に大きく関わりがあるということである。
体を構成する組織を大きく4つに分類すると、結合組織、上皮組織、筋組織、神経組織となる。
そのうち結合組織には血中の赤血球から、骨から、内臓からと多くのものが含まれる。
その結合組織を構成する中に線維芽細胞(せんいがさいぼう)というコラーゲンやヒアルロン酸といった真皮の成分を作り出す細胞がある。
この線維芽細胞の分裂回数がおよそ50回とされている(サイトによっては60回とも)。
この細胞は1~2年に1回の分裂を行うとされているので、上手く長生きできても人の寿命はおよそ120歳までと言われる所以である(寿命に関わる要素は他にも多くあり、大概の人はそこまで生きられないのが現実)。
ヘイフリック限界は1961年にアメリカのレオナルド・ヘイフリック教授らによって初めて発見された。
様々な臓器の細胞を培養すると、それら臓器によって固有の分裂回数で増殖を停止すること。
年齢の高い人からの細胞は分裂回数が少ないこと。
遺伝的早老症患者からの細胞は健常者のそれよりも分裂回数が少ないことなど、多くの発見が生まれたという。
では、なぜ細胞の分裂回数には限界があるのか。
それを決定づけているのがテロメアである。
テロメアとは染色体の末端にある構造物であり、染色体を守る役割を持っている。
テロメアは通常細胞分裂を繰り返すたびに徐々に短くなっていく。
そしてある程度のところまで短くなってしまうとヘイフリック限界を迎え、それ以上細胞は分裂できなくなる。
それが細胞死であり、個体の老化現象となるのである。
テロメアの長さで分裂回数が決まっているため、テロメアは「命の回数券」などとも呼ばれている。
テロメアは染色体につながるものであり、ヒトのテロメアの塩基は生まれたばかりの頃は1万5千塩基ほどの長さで、35歳でおよそ半分になるという。
その後6千を下回ると染色体が不安定になり、2千になると細胞がこれ以上の分裂ができなくなるとのこと。
テロメアの長さで分裂回数が分かるのならば、これを測れば寿命もわかるということで、最近では遺伝子検査での寿命予測としてテロメアが調べられている。
テロメアが短くなると細胞分裂が起きなくなり、老化につながるというのは事実だが、あくまでも「その傾向がある」というだけで、テロメアの長さだけが寿命の絶対条件ではない。
実際に短くとも長生きしている人もいるという。
寿命を決定づける要因は100も200もあるとされており、テロメアはあくまでもそのうちの一つの要因だと理解しておかなければならないようだ。
]実はこのテロメアの長さ、年齢によって誰もが一定というわけではなく、個人差が大きいという。
NHKのある番組での調査でアラフィフ10名のテロメアの長さを測ったら、35歳相当の長い人から、83歳相当の短い人までいたという。
その個人差の大きさは何に由来するかというと、ストレスだそうだ。
介護の年数が長ければテロメアは短くなっていたとのこと。
また、被検者にあるストレスを与えて、強くストレスを感じたグループとそうでないグループを比較したら、ストレスを感じやすいグループの人たちのテロメアが短かったという研究結果も。
一方で、ガンの主な原因がテロメアの減少にあるという研究もある。
テロメアは染色体の保護する役割を持っており、それが短くなると遺伝子配列が不安定になり、正常な分裂ができなくなる。
結果がん細胞を産んでしまうという。
認知症についてもまたしかりである。
皮膚についても分裂ができない細胞が増えてくると、全体の張りがなくなり、シワが増えていく。
これらすべて個体の老化現象そのものである。
このようなテロメア。
これまで細胞分裂のたびに短くなっていく一方とされていた常識を覆し、一度短くなったテロメアでも、場合によっては長くすることができるという発見をされたのがアメリカのブラックバーン博士である。
その方法は酵素「テロメラーゼ」を増やすことだという。
博士はこれで2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞された。
そのテロメラーゼを増やす方法の第一は「瞑想」だそうだ。
これはストレスを軽減し、自律神経の乱れを整えるためのもの。
20年もの長きに渡り、認知症やうつ病を患う両親の介護を続けてきた人など23名が、2ヶ月に渡り瞑想を続けてきたところ、テロメラーゼの量が43%も増えたという。
その他、1日30分程度の有酸素運動(ウォーキングなど)、野菜中心の食事、家族・友人・パートナーとの良好な関係(愛情をいかに実感できるか)、7時間以上の睡眠などが大切だという。
これらのプログラムを5年間続けてきた人はテロメアが10%も伸び、ガンの進行も遅らせることができたとのこと。
言われてみれば、これまで散々「健康に良いもの」と言われてきたものばかり。
テロメラーゼの発見そのものは画期的だったけれども、やるべきことは何も難しいことではないらしい。
しかし、21世紀の予防医学の大発見の一つとして「孤独はタバコと同じくらい健康に悪い」という事実は、何やら妙に心に突き刺さるものがある。
ちなみに、テロメラーゼのサプリメントがあるという。
ブラックバーン博士の発見によって「いよいよ不老不死の薬かも知れない」と大騒ぎになったとか。
しかし、マウスの実験ではテロメラーゼを多く摂取すると一見皮膚は若返ったように見えるのだが、それと同時にガンもたくさん発生することがわかったという。
なので、外からの過剰な摂取は推奨されていない。
個人的にも古い人間のせいか、やはり「サプリで健康に」はどう見ても不自然に思えてならない(苦笑)。
確かにやるべきことは今まで言われてきたことと変わりはないようだが、「タバコや過剰な飲酒は健康に良くない」とただ言われるよりも、その行為一つ一つが「命の回数券の無駄遣い」と言われた方が心に響くかも知れない。
多くの人は人生の終焉を考えたとき、「ピンピンコロリ」を理想とする。
それには健康寿命と平均寿命の差を限りなくゼロにしなければならない。
「ピンピンコロリ」を望むのならば、「瞑想」「有酸素運動」「和食」「十分な睡眠」「人とのつながり」を大切にして、テロメアを伸ばし、健康寿命を延ばしていこう!
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