おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

スプレーで傷口治癒が劇的アップ 

2024/04/09

ひところ前ならまるでSFの世界のような医療がまた一つ実現しそうである。

スプレーでシュッと一吹きするだけで人の治癒能力を5倍も高めることができるというのだ。

そんな技術を開発しているのはアメリカ空軍研究所とミシガン大学。

そのスプレーは「細胞再プログラム技術」を応用したものだという。



細胞再プログラムとは、人間の皮膚の細胞などに含まれているゲノム(遺伝情報)をプログラムし直して、筋細胞・血液細胞・神経細胞といった種類の異なる細胞に生まれ変わらせる技術とのこと。

基本的に私たちの体を構成している細胞はどれも同じ遺伝情報を持っている。

その中のどの遺伝子が働くかで様々な臓器へ変化していくだけなのだ。

なので、例えば傷口の露出した筋細胞を表皮細胞に変えれば皮膚移植などをやるよりもずっと確実に治療できるようになる。

それがこの研究のコンセプトだという。



このゲノムのプログラムをし直す作業には「転写因子」と呼ばれるたんぱく質が利用されるという。

転写因子には細胞の中にある様々な遺伝子のスイッチを切り替えて、分裂や成長、移動や組織化といった細胞の活動を制御する働きがあるとのこと。

この技術を確立するには転写因子というものを特定しなければならない。

数ある遺伝情報にピンポイントで働きかける最適な転写因子を見つけるのに、かなり時間を要すると思われる。

しかし、生物情報学者のインディカ・ラジャパクサ博士は秘策を用意しているという。

それは生きた細胞を撮影することができる顕微鏡と、最適な転写因子を数学的に特定してくれるアルゴリズムなのだそうだ。



顕微鏡で細胞を覗きながら集めたデータをアルゴリズムに入力し、診断精度を向上させていく。

そうすることで怪我の治療に最も効果的な転写因子を特定することができるだけでなく、どの細胞サイクルでスプレーすれば最大の効果を発揮することができるのか、そのタイミングまで把握できるようになるという。

空軍研究所のファリバ・ファルー博士は、その研究開発のスピードがいかに驚異的なものなのか、次のように語っている。

「数学でこんなにも早く、このような有望な結果が得られることは稀です。普通なら数十年の基礎研究を経て、ようやく実際に応用できるモデルが作られます。ラジャパクサ博士はそれをほんの数年でやってのけました」



惜しむらくはこれが軍事研究関連で進行していること。

古今東西、戦争は様々な技術を発展させてきた。

自分が携わっていたリハビリの分野も先の世界大戦の時に発展した分野である。

戦争に寄与できる人間を一日でも早く復帰させる、それが医療分野の進歩に貢献する動機だとすれば、何やらさみしいような、恐ろしいような思いもする。

なお、このような技術が確立すれば、怪我だけでなく、火傷などにもおそらく効果が期待できるであろう。

一日も早い確立を期待したい。



ちなみに、この記事が出たのは2021年のこと。

それより遡って2014年には人の神経回路器官に自動制御調節装置を直接埋め込むことで自己治癒能力を高めるという研究が行われているという記事が出ていた。

こちらは米国防高等研究計画局(DARPA)で行われている研究で、「エレクトRX(エレクトリックス)」プロジェクトと呼ばれている。



エレクトRXのコンセプトは装置によって神経シグナルを調整し、治療に対する患者の反応を常時モニタリングすることで、怪我からの回復を促進させるのだという。

想定しているのは、極小の自動制御ペースメーカーのような、薬物利用に代わる閉ループシステムで、目標は、人体の神経繊維とほぼ同じ超小型サイズで、注射針によって体内に注入可能な、移植においても侵襲性を最小限に抑えた装置にすることだとしている。

そうした高性能装置を神経回路に埋め込むことで自己免疫能力を調節し、人体の健康状態を回復/維持する技術の開発しようというのだ。

もちろんエレクトRX技術は、兵士の機能回復を促進する技術として研究されているが、特定の神経回路の構造と機能、および健康や病気におけるその役割の解明を目的とする科学的研究の推進にも役立つと期待されている。

可能性のある対象としては、関節リウマチ、全身性炎症反応症候群、炎症性腸疾患など、さまざまな炎症性疾患の治療研究において成果が期待できるという。

さらに、てんかん、外傷性脳損傷(TBI)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ等の脳疾患や精神疾患における抹消神経刺激治療の改善も期待されるとのこと。



このコンセプト自体は新しいものではないそうだ。

しかし、これまでの装置は精度に難があるため副作用を引き起こしたり、戦場で持ち運ぶには大きすぎたり、外科的な移植まで必要になったりと、さまざまな欠陥があったという。

確かに上記のような超小型サイズで、侵襲性を最小限に抑えた装置になれば有効な技術になることは間違いない。

しかし、なぜそんなにも軍事利用が開発のモチベーションとなるのだろうか。

ストレートに地球に住む誰もが望むであろう怪我や病気の早期回復につながる技術の開発が進められることを望むばかりである。


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