シャルル・ボネ症候群
2021/02/08
突然だが、あなたが見る夢に色はついているだろうか?
その夢の映像は鮮明だろうか?
人によってあまり夢を見ない人もいるが、なかには鮮明な夢を見る人もいる。
考えてみると、なぜ寝ている時は目を閉じているのに、色つきの映像を見ることができるのだろうか?
当然のことながら、夢は脳に記憶されている色や物を元に作られているので、実際に何も見てはいなくとも、映像を認識できるのである。
もし、あなたの周りに緑内障などで高度に視力を失いながらも、「人が見える」「モノが見える」という方がおられたならば、その方は精神の破綻を来たしたのではなく、シャルル・ボネ症候群かも知れない。
ある眼科のDrによると、「シャルル・ボネ症候群とは、加齢黄斑変性症や緑内障などの病気で視力が著しく低下した高齢者に見られる幻視」であるとのこと。
この幻視は無意味な映像が脈絡なく、しかも現実感や迫真感を持って見えるという。
見えるのは人や動植物、幾何学模様などが典型例とされているが、建物や景色、文字、あるいは動物のような人間や、人間のような非人間像が出ることも少なくないそうだ。
単に、記憶にあるものだけでなく、新たな創造物が見えるというのは、人間の想像力の豊かさの表れかも知れないとのこと。
下記のサイトにはある患者さんに見える幾何学模様を、専門家に描いてもらったという図が掲載されている。
幻視とはいえ、非常に精緻で鮮明な模様になっていることに大変驚かされる。
見え方としては、幻視で見える模様で現実のモノが隠されていることもあれば、幻視で見える像の後ろに歪んだ現実のモノが見えることもある。
数秒で消えることもあれば、一日中続くこともある。
そして、一人で何種類も見える例もあれば、同じようなものがくり返し出る人もいるという。
なぜ、このような現象が起きるのだろうか。
人間が「見る」という行為は、「目で見る」ことと、「脳で見る」ことの二通りで行っている。
「脳で見る」というのは記憶にあるものを呼び起こし、それを映像として認識することである。
夢がまさにこれに当たるが、シャルル・ボネ症候群は覚醒時にそれが起きている状態ではないかと考えられている。
両目視力が0.1以下という著しい視力低下をきたした高齢者のうち、1割ぐらいの人が経験しているという。
手足を切断した人が、あるはずのない手足に痛みを感じる幻肢痛という現象が起きることがあるが、目からの情報が激減してしまうと、同じようにそれを補おうと「脳で見る」機能が強まるのではないかと考えられている。
根本的な治療はないが、多くは2~3ヶ月程度、長くても1~2年程度で自然に消えていくとのこと。
しかし、問題は患者さんが誰にも相談できずに、一人で悩むことだという。
この現象には知的な問題は何もなく、本人も幻視であることを十分自覚しているのだが、周りから「精神異常ではないか」などと思われることを恐れてしまい、人に言い出せないでいるケースが多いというのである。
視力の著しい低下をきたした高齢者の1割に起きるとされているが、そのうちの1%ぐらいしか誰かに症状を訴えていないという。
この幻視が決して精神疾患ではないことを本人や家族に伝え、安心してもらうことが最大の治療であるというのである。
井上眼科病院にはこのような幻視が見える患者さんたちの患者会・「ボネの会」があるそうだが、その会の発起人の一人の方の話。
「家の風呂に入ると、決まってむこうに2~3人の人が入っているのが見える」という。
担当医が「一緒に入っているのは男性ですか、女性ですか?」と尋ねると、「それが残念ながら、全員男性なんだ」と笑って答えたとのこと。
どうやら幻視の内容まではコントロールできないようだ。
その患者さんは精神科医だそうで、担当医と幻視の内容や成り立ちについて、診察室で会話が弾むそうな。
ちなみに、シャルル・ボネとは18世紀のスイスの博物学者で、昆虫やヒドラの研究で、先駆的な実験考察を行い、数々の著書も出版した人物とのこと。
しかし、その後視力を失い、哲学の分野に転じたという。
そして、彼自身が幻視を見たことで、1760年に視力障害者に特有な幻視の症状があることを記述したのである。
結構古くから知られた症状のようである。
見えないはずのものが見えるという体験は確かに混乱を招くことではあるだろう。
だが、その幻視が精神の異常からくるものではないことを知り、かつストレスを与えるものでないのならば、どのようなものであるのか、一度体験したいような気持もある。
あなたは幻視の体験をお持ちだろうか。
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