シェーグレン症候群

2023/09/04

もしあなたがひどいドライアイやドライマウスに悩まされているとしたら、シェーグレン症候群の可能性もある。本疾患は腺細胞からの分泌物の低下によってさまざまな症状を呈する。例えば涙の分泌が低下することでドライアイを起こし、唾液の分泌低下によってドライマウスを起こす。シェーグレン症候群の４５％はこのドライアイやドライマウスの症状のみであり、いわゆる「健康」的に暮らしていける状態だと言われている。とは言うものの、唾液の分泌低下は虫歯や酸蝕症（唾液が少ないために酸性の飲食物によって歯のエナメル質が侵蝕される状態）を招くなど、決して平穏な生活でいられるわけではない。

線細胞の変化が他臓器にも起こると症状は多様な広がりを見せる。

〇皮膚症状として乾燥に伴う掻痒、皮膚血管炎、レイノー現象（手足の細動脈の血流不足が発作的に起き、冷感や皮膚色の変化が起きる）、環状紅斑（輪状の紅斑）

〇関節・筋関連では、全身性エリテマトーデス様の関節炎、多発性筋炎に似た炎症性筋炎

〇肺では間質性肺炎

〇心臓では時に心外膜炎

〇消化管では嚥下困難、消化管蠕動異常

〇肝臓では肝機能障害、胆汁性胆管炎、門脈圧亢進症（消化管から肝臓に流れる血管を門脈と言い、門脈圧が高くなることで新たな症状を生む）

〇その他、腎臓、膀胱、甲状腺、神経などにも炎症を起こすことがある

 

上記を包括して具体的な症状を列挙すると

ドライアイ（涙が出ない、目がゴロゴロ、かゆい、痛い、目が疲れる、よく見えない、まぶしい、目やにがたまる、悲しくても涙が出ない）

ドライマウス（口が渇く、嚥下困難があり摂食時に水をよく飲む、口が渇いて声がかすれ会話が困難、味覚異常、口内炎好発、夜間に飲水のために起きる）

その他、腺細胞が障害を受ける場所によって、鼻腔の乾燥、鼻出血、息切れ、発熱、関節痛、脱毛、肌荒れ、夜間頻尿、紫斑、皮疹、レイノー現象、アレルギー、日光過敏、膣乾燥（性交不快感）、全身の疲労感、記憶力低下、頭痛、めまい、集中力低下、気分不安定、うつ傾向など本当に多様な症状を呈することがある。

　

ドライアイやドライマウスと同じ病態でこれほどまでに多様な症状を引き起こすなどとはなかなか想像できない。しかし、残りの５％には悪性リンパ腫など更なる重篤な症状が認められるという。これは本疾患がリンパ節に慢性の炎症をきたすために、リンパ球の破壊と再生を繰り返すうちに、一部が癌化するものと考えられている。

 

本疾患はそもそも何が原因で、疫学的なデータや予後はどうなのだろうか。

膠原病に合併して二次的に発症するケースと、合併症なしに原発性で発症するケースとに大別されるらしいが、自己免疫疾患と考えられている。しかし、直接的な原因は不明であり、遺伝的要素、環境要素、性ホルモンの影響などの関りも指摘されている。

 

患者数は、２０１１年のデータでは年間６８０００人ほど受診されているとのことだが、潜在的な患者を考えるとアメリカのデータを当てはめた場合、１０～３０万人ほどいると推定されている。４０～６０歳代に多く、特に５０歳代にピークがあるが、まれに子供や８０歳代に発症する場合もあるとのこと。男女比は１：１７で圧倒的に女性に多い。

 

治療法としては原因が明確でないため根本的な治療法はなく、ドライアイ、ドライマウスの治療を中心としてそれぞれの症状に応じた対症療法を行うのみである。予後は一般的に良好で、直接的に生命にかかわるような重症例は少ないが、上記のように皆無ではないことは覚えておくべきだろう。約半数の患者は１０年以上たっても何の変化も生じないが、残りの半数は１０年以上たつと何らかの検査値異常や新しい病変が見られるといわれており、注意が必要である。東洋医学的には津液の関りの病症と捉えられ、臓腑で言えば脾胃（中焦）、肺（上焦）、腎膀胱（下焦）と、それら上・中・下焦をつかさどる三焦あたりがチェック対象となると思われる。もし、ドライアイ、ドライマウスに悩まされておられるとしたら、一度受診されてみてはいかがだろうか。

 

今現在ドライアイやドライマウスがあるからと言って、悲観的になる必要はない。しかし、日常的なストレスなども発症要因の一つでもあるので、もし症状がある方がおられれば、たかがドライアイ、ドライマウスと侮ることなく、それ以上の症状の発現を抑えるべく、規則正しい生活を心がけるなど、せめて生活環境の改善にも努められることを強くお勧めしたい。