おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

クリプトスポリジウム症

2024/04/03

スーパーマンの弱点であるクリプトナイトを想起させるようなこの名前の疾患は、とても身近なものから感染する感染症である。

クリプトスポリジウムとは原虫であり、人を含む脊椎動物の消化管に寄生する。

いくつかの種類が存在し、その種と宿主との組み合わせによっては致死的になる場合もあり、決して油断のできない感染症である。

クリプトスポリジウムは水道からの飲用水を介して寄生することがある。

浄水されるはずの飲用水へ何故クリプトスポリジウムは入り込んでしまうのか。

水環境の中においてこの原虫は体の周りに膜や殻を形成し(その状態をオーシストという)、自分を害するものから身を守っている。

水道水を浄化する塩素ではこの膜は破られず、強い耐性を持つために無事宿主の体内に入り込むことができるという。



大型種(7×5µm、感染部位は主に胃)と小型種(5×4.5µm、感染部位は主に小腸)に大別され、それぞれ宿主とする生き物が異なる。

大型種には6種あり、それぞれげっ歯類・ヒト・ラクダに寄生するもの、ウシに寄生するもの、そのほか鳥類、ヘビ・トカゲなど、カエル、魚類などをそれぞれ宿主とする種類がある。

小型種には13種類あり、こちらにもいくつかヒトに感染する種があり、宿主もウシ、サル、モルモット、ネコ、イヌ、ブタ、有袋類、鳥類、トカゲなど幅広い動物を宿主としている。

エリアも世界中広く分布しているという。



クリプトスポリジウムは1907年に実験動物のネズミから発見された。

しかし、以後半世紀は別の種と混同されて認識されていた。

電子顕微鏡が使われるようになってから寄生するしくみが明らかになり、別の種類に分類された。

また、病原性についても1970年代までは意識されず、1976年に正常な女児と免疫不全患者から検出されてヒトでの病原性が明らかとなった。

その後しばらくは免疫機能が低下した患者に発症する日和見感染症と考えられていたが、1983年に水道を介した集団感染が発生し、健常者においても多くの症例が明らかとなり、現在では小児下痢症や旅行者下痢症、水系感染症として重要視されるようになったという。



臨床症状(宿主の状態によって予後が変わってくる)
健常者:下痢(水様便)、腹痛、倦怠感、食欲低下、悪心など。軽度の発熱を伴うことも。
    潜伏期間3~10日間、数日から2・3週間持続し、自然治癒する。

HIV患者:重症・難治性・再発性・致死性の下痢症を発生させる。
     泥状から水様までさまざまで、免疫不全の悪化とともに重症化し、時に大量の水様便を伴い、本疾患が直接死因になることもある。
薬剤は一過性で再燃する。
不幸にしてHIVに感染してしまった場合には、水道水も煮沸消毒して飲むなど細心の注意が必要である。
健常者の感染部位は小腸付近に限られるが、HIV患者では胆のう、胆管、呼吸器などにも寄生していたとの報告がある。



治療および対策
上記に自然治癒と書いたように、現在特効薬はなく、健常人であれば自然治癒を待つしかない。

宿主に寄生する前のオーシストの状態で死滅させられれば何の問題もないが、前述のように上水道の塩素消毒は効かないために、凝集・堆積・濾過によって除去率を上げていくことが行われている。

また、1分程度の煮沸で感染力はなくなるとのことで、使用者側にそれが習慣化されれば更なる危険性を低下させることができる。

健常人も罹ることが明らかになった1983年の事例の詳細は見つけられなかったが、翌年1984年にはテキサス州にて濾過処理を行わない水道水が原因で117人が感染したとの報告がある。

また、最大規模では1993年、ミルウォーキー州で推計403000人が感染し、100名あまりの死者を出した事例があるという。



日本においても集団発生は起きている。

1994年8月30日から9月10日にかけて神奈川県平塚市内の雑居ビルにおいて461人が罹患した。

8月30日にビルの利用者22名の下痢、発熱、嘔吐等の症状から始まった。

このビルでは上下水道の施設が隣接されており、本来であれば混じることのない汚水槽水が受水槽水に入り込んだことから起きたものだった。

また、1996年には埼玉県越生町の町民8812人が罹患した事例もある。

こちらは水道原水から検出されたそうだが、何によって汚染されたのかはわからなかったという。



その後も2002年2月にはニセコにスキー研修で訪れた兵庫県の高校生ら212名中129名が発症し、他の団体にも18名の発症者が出たという。

同年4月には室蘭の宿泊施設で新入生オリエンテーションを行っていた札幌市内の専門学校生ら300名中170名が発症したとのこと。

ただし、いずれも食品や使用した水からはクリプトスポロジウムは検出されず、水道水の供給地区からも発症者は出ていないという。



これらの集団発生を受けて様々な対策が取られるようになり、定期的な検査も行われるようになったことでそれ以降、日本では集団発生は起きていないという。

海外で水の安全性が担保されていないところでは要注意だろうが、日本国内で生活する分にはほぼ問題ないと考えていいのではないだろうか。

ただし、平塚市の事例のように、水道水自体は問題なくとも、施設の設備の不備によって起きるケースに防ぐ手立てはあまりない。

せいぜい極端に古く、メンテナンスも行われていない施設での飲食は控えるということだけだろうか。

それにしても、平成の時代にも集団感染が起きていたという事実は、完璧な衛生環境を作ることの難しさを示唆しているように思えてならない。

昨今はコロナや人食いバクテリアなど、様々な感染症が起きている。



終わりのない戦いが繰り広げられているのだ…。



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