オルトレキシア
2023/04/27
本疾患は「健康的な食べ物を食べなければならない」という異常な強迫観念があることを特徴とする摂食障害である。
語源はギリシャ語の「orthos(適切な)」「orexia(食欲)」という言葉が由来だという。
1997年にアメリカの医師、スティーブン・ブラッドマン博士によって提唱された。
認知されてからまだ若い疾患である。
特徴としては「健康的な食品に異常なまでに執着する」ことで、過食症や拒食症が単純に摂取カロリー・量を過剰もしくは極端に少ない量に抑えてしまう症状であることの代わりに、「健康に良くないもの(加工食品、砂糖を含むスイーツなど)は食べない」「糖質制限のために小麦系製品は食べない」など、行き過ぎた食への健康志向がかえって体にダメージを与えてしまう、ということである。
強迫神経症による摂食障害ともいえる本疾患は、食へのこだわりが強すぎるために、食べる幸せや人付き合い、社会生活などを犠牲にしてまで健康的な食生活を貫こうとする。
主に30代以降の女性に多いと言われている。
もしかしたら、健康志向が高まりやすい年代なのかもしれない。
オルトレキシアは4段階に分けて説明することができるという。
第一段階では「毎日の食事で何を食べるか」ということを徹底的に考え始める。
第二段階では食べ物の原材料や含まれている成分が気になり、批判的な視点も持ちながら情報を集め始める。
第三段階では自分が口にするものは健康的に害がない原料と製法で作られていなければならないと考え始める。
最後のステージでは、1~3のステージで自分が「これが健康だ」と思えたものだけを食べなければならないという強迫観念にかられ、必要以上に食にこだわるようになる。
問題なのはこれらの行動を本人はいたって真剣に、「正しいことをしている」と感じる点である。
当然ながら偏った食生活となり、それは時に栄養失調などの命の危険にまで及ぶ可能性もある。
もちろん、健康的な生活や食に興味を持つことはいいが、「~でなければならない」と自分を縛るようになれば、それは知らず知らずのうちに、逆に生活と健康を蝕むことになると警告されている。
スティーブン・ブラッドマン博士はオルトレキシアかどうかを判断するために10の質問を作った。
自分がもしかしたらオルトレキシアかもしれないと思われた方はぜひ試してみて欲しい。
判定は質問のあとで。
①1日に3時間以上、ダイエット関連のことを考えますか?
②何日も前から食事のメニューを考えることがありますか?
③美味しい食事を味わう楽しみより、食品に含まれる栄養価が気になりますか?
④以前より、自分自身に対して厳格になっていませんか?
⑤あなたの自尊心は、健康的な食事を取ることによって保たれていますか?
⑥ダイエットしたことにより、人生がより良くなったと感じますか?
⑦ダイエットを始めたことで、友人や家族と外食する機会が減りましたか?
⑧ダイエットをやめようかと考えたときに、罪悪感に苛まれますか?
⑨健康的な食事を摂ることで、安心感を得られますか?
⑩“正常な”食べ物を摂るために、食事を楽しむことを忘れていませんか?
さて、あなたはいくつ当てはまっただろうか。
4~5個以上の「Yes」がある場合はオルトレキシアの可能性があるので、不安な方は摂食障害を専門とする専門医・カウンセラーに相談することをおすすめしたい。
あるサイトで紹介されていたフランス人女性のサブリナ・ドビュスカさんは1年半の間にまずベリタリアンになった。
次に卵や乳製品、ハチミツなども食べないビーガンになった。
さらに生の食材しか食べないローフード主義者となり、最後はフルーツしか食べないと決めた。
心配したボーイフレンドがある時、ごっそりと抜けた彼女の髪をバスルームで見つけた。
それを目の前に突き出された時、彼女は初めて自分が良くない方向に向かっていると悟ったのである。
ドビュスカさんは
「健康で正しい食べ方、長生きのできる食べ方だと思っていた。純粋な状態でいたかった。だけど最後は自分のそういう思いに対して、体の方がノーと言った」
と振り返った。
オルトレキシアは精神医学会で広く診断基準とされている米精神医学会の「精神障害の診断と統計の手引き」に含まれてはいない。
つまり、まだ正式な疾病と認められているものではないのだろう。
しかし、現実に食に対する強いこだわりから健康障害を引き起こしているケースがあるのだとしたら、十分に注意すべきことであるのは間違いない。
ある精神科医は、この症状は摂食障害というより「恐怖症(フォビア)に近い」という。
従ってほかの恐怖症と同様に、間違った思い込みや強迫観念について語り合うほか、リラクゼーション療法のような不安解消法などの認知行動療法で対処できるという。
以前、あるテレビ番組で、「食べ物が怖い」という症状を持つ人が取り上げられていた。
この症例は極端な健康志向にハマるオルトレキシアではなく、略称ARFID(アーフィッド)と呼ばれるもので、食べ物全般に恐怖を感じるらしく、ある女性は野菜や果物に恐怖を感じ、近くにいるだけでパニック発作を起こし、「野菜や果物は敵」とまで語っていた。
20年以上もそうした症状に悩まされ続けてきたという。
彼女の食生活は決まったメーカーのピーナツバターを塗ったパンでのみで支えられていた。
しかし、ある心理学者のカウンセリングを1時間受けただけで、これまで口にしたことのなかった果物を食べるまでに変化することができていた。
このケースのように、オルトレキシアもいかに恐怖心を取り除けるかが鍵になるのかもしれない。
しかし、一方で実際に果物だけしか食べないという人もいる。
それらの人々はいかに自分が健康的な生活を送れているかを発信している。
それが単なる思い込みではなく、真に健康的な生活が送れているのだとしたら、それらの人と、オルトレキシアとの差は一体何なのだろうか。
単なる体質なのだろうか。
それとも、理性は健康的な食事を支持しているが深層心理では拒否していることで体が反応を起こしているのだろうか。
冒頭に認知されてからまだ若い疾患であると書いたが、このような疾患が生じた背景には狂牛病や抗生物質使用問題、遺伝子組み換えなど、食に関するスキャンダルが続いていることに関係しているのではないかと分析する向きもある。
それらスキャンダルは当然のことながら人の手によってもたらされたものばかりである。
オルトレキシアとまではいかなくとも、食に対する漠然とした不安感は多少なりとも多くの人が感じているのではないだろうか。
遺伝子組み換え食品の安全性もまだ検証しきれているとは言えない。
全人類の課題として「食の安全」について考えていかなければならないかもしれない。
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