アレキサンダー病
2018/09/21
今回は国内の患者数が50名ほどという極めて稀な疾患である。
この疾患は1949年にアレキサンダー氏によって報告された。
当初は乳児期に発症するけいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れを中心に、10歳に満たずに亡くなってしまう非常に予後不良の疾患と考えられていた。
診断は脳の病理組織で行われ、死亡した後でないと確定診断のつかない難しい疾患だったのである。
しかし、2001年にベルナーらから患者の90%以上にGFAP遺伝子に異常があることが報告され、それ以降ようやく遺伝子検査による確定診断が可能となった。
すると、この疾患には成人以降に発症し、進行も比較的緩やかなケースが存在することが明らかになったのである。
診断法が確立されるまでに実に50年以上もの年月がかかり、それによって実は新たな患者層の広がっていたことが明らかになったのである。
成人期にも患者層の広がりが見つかったことで、現在この疾患は以下の三つの型に分類され、診断は各症状とMRI検査にてこの疾患が疑われると遺伝子検査が行われるという。
日本では約50名の患者さんが昨年7月の時点で確認されている。
新生児から60~70歳の年配者まであらゆる年齢で発症する可能性があり、起因に関連する体質、食事、環境は今のところ確認されていない。
診断法がようやく見つかり、その疾患の広がりが明らかになってもまだ疾患そのものの解明は進んでいないということである。
① 大脳優位型(全体の約半数)
乳児期発症で、けいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れを主症状とする。
乳児期発症で、けいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れを主症状とする。
② 延髄・脊髄優位型(全体の約1/3)
学童期あるいは成人期以降の発症で、嚥下機能障害、手足の運動機能障害、立ちくらみ・排尿困難などの自律神経機能障害などを主症状とする。
学童期あるいは成人期以降の発症で、嚥下機能障害、手足の運動機能障害、立ちくらみ・排尿困難などの自律神経機能障害などを主症状とする。
③ 中間型(全体の約1/5)
上記両型の特徴を認める。
上記両型の特徴を認める。
原因はGFAP遺伝子の異常と考えられている。
この遺伝子は脳の「アストロサイト」という細胞を支える働きを持つという。
この「アストロサイト」が機能障害を起こすことで発症するのだが、「アストロサイト」の役割は脳の神経細胞や血管などと情報伝達を行うことで脳の機能を制御することである。
中枢神経系統のどこの「アストロサイト」が機能障害を起こすのかで、大脳優位型か延髄・脊髄優位型か、あるいは両方の特徴を持つ中間型か、に分かれるのである。
なお、発症年齢別の分類法もある。
いずれ、上記の分類を見ても類推できるように、発症年齢が若ければ若いほど予後が非常に悪く、新生児での発症では2年ほどで死に至るケースが多いという。
ちなみに、頭囲拡大とは水頭症のことである。
脳は脳脊髄液という液体の中にある。
脳脊髄液は常に新しい液が作られると同時に吸収もされており、常に適切な量に保たれている。
しかし、何らかの原因で脳脊髄液が過量に作られるとか、吸収がうまくいかないような状態になれば、脳脊髄液が溜まり続ける。
すると頭蓋内の圧力が高まり、その圧力に押され頭囲が拡大していくのである。
そうした脳への圧迫自体もまた脳の機能障害を引き起こすこととなる。
なので、溜まりすぎた脳脊髄液を腹腔内へ逃がしてあげるシャント術という治療がとられる。
ところで、遺伝子疾患となると、気になるのは遺伝するのかどうかということ。
この疾患の場合、常染色体の優性遺伝なので、両親どちらかに症状があれば50%の確率で子供は異常遺伝子を保有することになる。
一方で大脳優位型のほとんどのケースと、延髄・脊髄型の約半数の患者さんのご両親はGFAP遺伝子に異常がない。
つまり、この疾患全体の60%強の患者さんの両親にはGFAP遺伝子の異常はなく、突然変異での発症となるということ。
これは何を意味するかというと、もし自分の子供にこの病気が発症したとしても、遺伝子検査をして夫婦とも異常がなければ次に生まれる子が発症する可能性は極めて低いということである。
それにしても突然変異での発症がこれほど多いとは・・・。
起因に関連する体質も食事も環境もなく、遺伝子の突然変異で発症するのだとしたら、これはもう本当に誰も責めることのできない運命としか言いようのない疾患である。
話はちょっとずれるが、私たちの周りには健康上あまり勧められない食べ物は結構ある。
そして、そういうものに限って大量のCMが流されたりもする。
何を食べるかは基本的に自分で選ぶのではあるが、同時に私たちの消費行動はCMに大きく左右されることもまた事実である。
そうでなければCMを流す意味がないからだ。
だとすればあまり勧められない食べ物につい手を伸ばしてしまう責任は100%自己責任なのだろうか。
タバコにある程度規制がかかっているのと同様に、多食で健康を害する恐れがある物はCM回数に限度を設けるとか、多少の規制をかけた方がいいかもしれない。
せっかく防げる病気なのであれば。
話を戻そう。
この疾患には有効な治療法はまだない。
痙攣を生じる場合には抗てんかん薬を処方するなど、いわゆる対症療法的な治療が中心となる。
運動機能障害には力が入らない、手足の突っ張り、バランスがとりにくいなどの症状があるが、個人差がある。
適切なリハビリテーションと、必要に応じた補助具の使用、むせなどの嚥下障害がある場合には食事内容の工夫も必要である。
現場では医療人が頑張っているのだろうが、何とか根本治療が見つかってほしいものである。
日本でいえば発症率わずか0.000039%の疾患だが、突然変異で自分も含め、誰にでも起こりうること。
早く疾患の解明が進み、治療法や予防法が確立されて欲しいものである。
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