おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

てんかん

2023/09/26

今から11年前の2012年4月12日、京都祇園で軽ワゴン車の暴走により運転者を含む8名が死亡、12名が重軽傷を負うという痛ましい事故が起きた。

前年4月18日には栃木県鹿沼市でクレーン車の暴走で6人の児童を死なせた事故も起きた。

いずれもてんかん患者による運転中に起きた事故とのことで、当時随分と「てんかん」というキーワードが話題になった。

鹿沼市で起きた事故では、運転者は医者に運転を止められていたにもかかわらず運転を続けていた事、当日に薬を飲み忘れ、本人も「何かヤバイかも」と思いながら運転を続けた事、以前にも同様の事故を起こし有罪となり執行猶予中であったことなどを聞くと、病気を抱えた苦しみには同情できても、その無責任さには怒りを覚えざるを得なかった。

その被害は亡くなった6人の児童やその家族に留まらず、全国のてんかんに苦しむ人々への偏見も助長させることにもなったからだ。



京都の加害者は最終的に電柱に追突して亡くなっており、事故当時の発作の有無については明らかではないが、警察の調べでは発作を起こしたものとみられている。

加害者は2003年にバイクで単独事故を起こし、その後遺症でてんかん発作を起こすようになったらしい。

しかし、その病状を申告することなしに免許を更新しており、2012年の事故前には2度の意識消失発作を起こし、家族や医者からは運転しないように言われていたようだ。

だが、病状については会社側に申告することなく、会社所有の車を運転し事故を起こしてしまったという。



2年連続でてんかん患者が事故を起こしてしまったことで、てんかんに対するマイナスイメージが当時、更に強まってしまったことは否めない。

てんかんはいわゆる珍しい病気ではない。

京都の事故の加害者も以前の事故がきっかけで発症しただけなので、誰もがかかりうる症状なのだ。

そのことを理解し、てんかんについての正確な知識を整理してみたいと思う。



てんかんとはソクラテス自身がてんかんであったと言われており、古くから存在が知られていた病気である。

人口の0.5~1%の発症率とされているのでかなり多いが、意識消失のない軽度の方が多い。

これといった原因がないにもかかわらず80歳を過ぎてからの発症報告もあり、老若男女とも発症の可能性があるといわれている。

代表的な症状としては「突然倒れて泡を吹く」というものだが、発作の原因は脳神経の過剰な放電によるもので、脳のどの部位でその放電が起きるのかで実際は様々な症状が現れる。



具体的な症状としては上記のように意識障害と全身の痙攣などの大発作から、ぼんやりと一点を見つめ続けるなどの小発作、放電の部位によって運動野なら不随意な運動を起こし、感覚野なら異常感覚を感じ、視覚野ならば閃光が見えるなど実に様々な症状が見られる。

また、手のみあるいは脚のみなど身体の一部に限局した強直や、手に始まった震えが腕や足に次々と進展していくジャクソン行進という症状が見られる場合もある。

意識がないままに反復運動を引き起こす自動症という症状もあり無意識に周囲を歩き回ることもある。

時には運転や楽器の演奏など高度に熟練した動きを見せる事もあるという。

大半の発作は一過性であり、数分~十数分程度で回復するのが一般的である。



その放電現象が起きる原因は脳の損傷や神経の異常であり、出産前後の酸素不足、頭部外傷、脳卒中、脳の感染症、てんかんに関連した遺伝子の異常等々がある。

これに発作を誘発する因子(光刺激、過呼吸、精神的・身体的ストレス、睡眠不足、月経周期に関連したホルモン変動等々)が加わることで発作が起きる。

つまり脳の損傷で誘発される可能性が高いが、それがなくとも誰もが発症しうる病気だという事だ。

しかし、てんかん発作を持つ人でもその7割以上は発作が完全に抑制されており、とくに問題のない健全な生活を営むことが出来る。

正常な脳がそのような放電を起こさないのはそれを防ぐ仕組みがあるからで、その仕組みの破綻がてんかんを引き起こす元になっているのだ。



発作時には患者が暴れて段差から落ちたり壁などに体をぶつけたりして怪我をしない様に、周囲の者が安全確保をすることが大切である。

発作が5分以上持続する場合には救急車を要請することが推奨されている。

昔は発作時に口の中や舌を噛んでしまう事を防止するために、ハンカチを巻いた鉛筆や箸を噛ませるようにしていたこともあった。

しかし現在では、逆に口内や歯を損傷したり、処置者が受傷する危険もあり、また、稀に嘔吐した際の嘔吐物が気管に誤って入り肺炎になったり、気管に詰り窒息する危険性があるので、絶対に避けるように指導されているそうだ。

発作が起きた場合、周囲の人は発作の様子を具体的に救急隊や医療関係者に伝えることが、医師の的確な診断につながり、原因究明や再発防止に役立つことが多いという。

なので、発作の場面に遭遇すると周囲の人も混乱するかもしれないが余裕があればしっかりと覚えておいてほしいとのこと。



治療は西洋医学的には薬物療法が中心となるが、ビタミンBの不足でなる場合もあるそうで、そのケースでは栄養療法なども行われる。

東洋医学ではてんかんに対する鍼灸の効能は古くからいわれており、肩甲間部の筋緊張やコリコリとした硬結を緩ませることで著効を示すことから、ある文献では「症候発作の原因が背部諸筋の緊縮によって脳内血行障害を及ぼし起きるのではないかと考えられる」とある。

原因不明のてんかんの場合はこれなのかもしれない。



罹病率が高いだけに有名人も多くいて、画家のゴッホ、陸上の100m女子のジョイナー選手、作家ドストエフスキー、ジャンヌダルク、精神科医ユング、軍人ナポレオン等々、おそらくそれぞれの分野では名が通っているのであろう人たちの名前が検索してみると並んでいる。

それだけありふれた病気であることを表している。

自分も中学のとき、クラスメートが授業中に椅子から倒れ失神したが数分後に何事もなかったかのように授業を受けていた事にとても不思議な思いでいたことを覚えている。

本当に身近にいて不思議のない病気なのだ。

それだけに同じ病状で苦しむ人への偏見を助長するような事故を起こした責任の重さは計り知れない。



かつてはてんかん患者には運転免許を与えないと明記されていた。

だが、2002年の道交法改正にともなって発作がおきても意識障害を伴わないなどの条件付で一部取得可能になった。

しかし、このご時世、運転できないのは就職口の条件を狭める事になり、てんかんであることを申告せずに取得する人もいるという。

上記の加害者たちのように。



裁判では以前は事故時に心神喪失状態ということで無罪となるケースが多かったようだが、事故当時も有罪となることが多くはなっていたようだ。

だが、てんかん患者による大事故が連発したことで2013年6月道路交通法が改変され、病気が原因で死傷させた場合に危険運転致死傷が適用されることになった。

これは被害者をこれ以上生まないというだけでなく、本人の身も守るという観点からも必要な措置だと思う。



事故後、運転中に左手だけが自分の意思に反して硬直してしまい、右手を添えてコントロールした経験があるというてんかんの男性の証言がTVに出ていた。

もしかしたら京都の加害者も右足だけが硬直してしまってアクセルを踏み続けたという可能性も無くはない。

京都の事故では3か所で大きな事故を起こしているが、最初の事故以降徐々にスピードを上げている一方で、場面場面では他の車を巧みによけていることから、アクセルを踏み込んだ状態で右足の硬直を起こしつつ、意識を失うことなく自由の利く上肢でハンドルさばきをしたとも考えられる。

最初のタクシーへの追突自体かなりのスピードが出ていたにもかかわらず、その後にバックして向きを変えて発進して行ったというので、その時点ではまだ発作を起こしていなかったのかもしれない。

このように意識消失を伴わない、手あるいは足だけという限局した症状の場合でも事故につながりかねないとなれば免許取得自体を制限せざるを得なくなるのもしようがないかもしれない。


てんかんは脳損傷以外でも発症する可能性があるので、自分も含め全ての人になる可能性がある病気である。

そうであれば、てんかんに対する偏見を持たず、病状に即した生活、働き方というものを周囲も理解する必要がある。

そして本人もてんかんであることを隠さず、「わたしはてんかんですので運転はしません。発作を起こすかもしれませんので、発作を起こしたらこのように皆さんに対処して欲しいです」と周りに宣言し、真摯な対応をしたほうが時間はかかっても結局は周りの理解を深め、市民権を得ていくのではないかと思う。

あなたはどう考えるだろうか。

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