たこつぼ心筋症
2023/10/10
タコつぼ心筋症とはある日突然、何の前触れもなく胸痛や息切れなどの症状が出現する心臓の病気である。
心臓が収縮する際、部分的に動きが悪くなり、その形態が「タコつぼ」に似ていることからその名がついたという。
これは1990年に日本で命名されたものだそうだ。
高齢の女性に多くみられ、強い精神的、肉体的ストレス後に胸痛、動悸、呼吸困難、吐き気などといった狭心症や心筋梗塞と似た症状で発症するという。
心臓には右心房、右心室、左心房、左心室という四つの部屋がある。
右心房は全身をめぐってきた血液が最初に入る部屋。
そこから血液は右心室に移動して肺に送られる。
肺で酸素を満たした血液は左心房へと入る。
その血液が左心室へ移動して、左心室の収縮によって全身へと送り出されるのである。
タコつぼ心筋症は最後の部屋である左心室の心筋の異常によっておこる(下図参照)。
左心室の先の方の心尖部という部分の心筋が動かなくなり、その一方で上の方の部位にあたる心基部という部分の心筋が過剰に収縮するのである。
それによって左心室の形が「タコつぼ」に似ていることから命名された。
原因は不明だが、身内の不幸や激しい口論、運動などの突然の激しいストレスが引き金となり、交感神経が活性化し、血液中に大量のカテコラミンというホルモンが放出されることによって心臓の筋肉が障害されるために起こるのではないかと考えられている。
また、中高年女性に多いので女性ホルモンの減少も関係しているのではないかともいわれているそうである。
男女比は1:7で女性に多く、発症年齢は男性65.9歳、女性68.6歳となっている。
季節的には夏に多く、また時間帯は朝に多いとのこと。
女性は精神的ストレスで、男性は肉体的ストレスが発症の引き金になりやすいのだとか。
なので、災害時に発症率は高まるが、明らかな誘因がないケースも30%程度あるという。
診断は心電図(急性心筋梗塞に似た波形)と、心臓の超音波検査によりこの疾患特有の動きが見られれば緊急入院し、集中的な治療を行う必要がある。
診断をより確定させるためには心臓カテーテル検査を行う。
まず、心臓そのものに栄養を供給する冠状動脈に明らかな異常がないことと、左心室が心臓の収縮時に、上記の画像のようにタコつぼ様の形になるようであれば確定される。
経過は軽~重度と様々だが、一般的に予後は良好とされる。
しかし、心不全、不整脈、低血圧、ショックや突然死が起こる事例もあり、軽視はできないとのこと。
10%以下の確率で再発するケースもあるという。
タコつぼ心筋症に対する特異的な治療法はないとされているが、上記の合併症などへの対症療法が必要となってくる。
重度の基礎疾患がある場合に死亡率は12.2%になるが、基礎疾患がない場合は1.1%と極めて低くなっている。
一般的には一週間程度の入院で経過観察を行うようであるが、胸痛などの症状は多くの場合その日のうちに自然と落ち着いてくるという。
近年、自然の大規模災害時に発症する循環器疾患としてエコノミークラス症候群、不整脈、狭心症、心筋梗塞、大動脈解離などが挙げられるが、それらとともに本疾患も注目されているという。
まあ、自然災害に対する恐怖、愛する者との死別、経済的問題、家屋の全壊、避難所生活などによる精神的ストレス等々を考えれば、相当なストレスがかかることは想像に難くない。
そのため、避難所においては自動血圧計やAEDの設置、胸痛を訴える人への専門医のフォロー、プライバシーの確保、早期からのメンタルヘルスケアの介入が必要との提言もなされている。
災害時の避難場所としていえば、日本ではいまだに広い体育館で寒くプライバシーのない環境で過ごすイメージだが、先日どこかの国の災害時のフォーロー状況をテレビでやっていた。
そこでは家族ごとのしっかりとしたテントの支給や、仮住居なども家具付きでかなり長く使用できるような手厚い保護環境が紹介されていた。
このようなことは災害の多い日本でこそ世界に先駆けて率先して模範となるような環境づくりを本来ならすべきだろう。
いつまでも「緊急時ならこんな程度でいいだろう」的な発想で、貧弱な避難所のままでは二次的な被害を食い止めることはできない。
生活保護の適用基準の厳しさや内容の貧弱さを見てもそうだが、日本の政治はことさら弱者には厳しい。
災害の多い日本だからこそ、もしもの時にも安心して暮らせる施策を展開してほしいものである。
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