「腸ストレスを取り去る習慣」~ 松生 恒夫
2024/07/06
本日の腸関連第3弾は書籍の紹介である。
本書は初版が2011年でデータがやや古く、糞便移植法のことなども掲載されていないが、便通改善がいかに大切かを基礎からわかりやすく解説されているので、一般向けの教養書として非常に読みやすいものとなっている。
先日の「便秘」の解説はここから多く引用させていただいた。
本書では下痢についても触れられているので、下痢でお悩みの方にも是非読んでみていただきたいと思う。
ここでは本書の後半に記載されている腸の整えるための食事療法、生活習慣をいくつかピックアップして紹介したい。
なお、症状別に摂るべき食材も変わってくるので、本書で紹介されているケースを参考にしてみてほしい。
【 食事療法 】
〇朝一番の水
目覚めてすぐのコップ一杯の水が健康に良いというのは昔から言われていることだが、要は胃を目覚めさせ、腸の蠕動運動をおこさせる作用ということのようである。
それが一日の胃腸の活動のリズムを作り出すという。
松生先生はその一杯から始まり、1日1.5~2.0リットルの水分摂取を推奨されているが、東洋医学的には無理にそこまでの水分摂取をしなくともよいのではないかと考える。
便秘に悩む方が改善のために一時的に一定期間摂る分には構わないが、改善後も習慣化させる必要はないのではないかと思う。
それは腎機能への過負荷になるからだ。
ただし、朝の起き掛けの冷たい水一杯は一日のリズムを作り出すという意味では有効だろう。
なお、先生は水の代わりにペパーミント・ジンジャー・ティーも推奨されている(作り方は本書参照のほどを)。
〇食物繊維
食物繊維が便秘改善にとって重要であることは広く言われていることだが、具体的にどのような効果を持って有効だと言われるのだろうか。
それは不溶性・水溶性それぞれの食物繊維の持つ〈保水性〉〈粘性〉〈吸着性〉〈発酵性〉などの性質によって、
①便を柔らかくし、かさも増す
②食べた物の腸内の移動をゆっくりとし、血糖値を上がりにくく、血中コレステロールを下げる
③有害物質や滞積すると害になりやすい胆汁酸、コレステロールなどを吸着して体外へ排出する
④大腸の中を酸性にし、悪玉菌を抑える
などの効果が挙げられる。
単に便を軟らかくして排泄しやすくするだけではなく、それ自体が腸の健康へ寄与しているのである。
では、どのような食材がいいのだろうか。
食物繊維と聞くと生野菜やサラダをイメージされることが多いが、大切なのは不溶性食物繊維と水溶性食物繊維のバランスの取れた摂取なのだそうだ。
不溶性はセルロースなどが多く含まれるレタスやキャベツなど、食物繊維と聞いてイメージしやすいものである。
水溶性は昆布やワカメなどの海藻類、リンゴなど熟した果実に多く含まれるペクチンを多く含む食材だという。
この不溶性:水様性の食物繊維を2:1の割合でとると有効とのこと。
生野菜の不溶性食物繊維にばかりに偏りすぎるとかえって便秘を引き起こしやすくなるというのでご注意を。
摂取量としては1日25g以上をとるようにする。
松生先生はそれぞれの食材における食物繊維の含有量を200mlのカップ1つで計る、ワンカップ法を提唱している。
例えば同じ食材でも切り方によってワンカップに入る量は異なってくるので、この切り方をした場合にワンカップに入る食材に含まれる食物繊維はこのくらいというように。
これであれば何度か繰り返すうちに目分量でもおおよその含有量がつかめてくるのではないだろうか。
詳しくは本書を参照してほしいが一例を以下に。
食 材 | 切り方と1カップ当たりの量 | 切り方と1カップ当たりの量 |
食物繊維量(水様性、不溶性) | 食物繊維量(水様性、不溶性) | |
ごぼう | 乱切り 80g | みじん切り 85g |
4.6g(1.8g、2.8g) | 4.8g(1.9g、2.9g) | |
玉ねぎ | 1cm角切り 92g | みじん切り 105g |
1.5g(0.6g、0.9g) | 1.7g(0.6g、1.1g) | |
人参 | 乱切り 90g | みじん切り 115g |
2.4g(0.6g、1.8g) | 3.1g(0.8g、2.3g) | |
キャベツ | 千切り 45g | みじん切り 65g |
0.8g(0.2g、0.6g) | 1.2g(0.3g、0.9g) |
例えば、ごぼうを乱切りにした場合、200mlカップには約80g入り、含まれる食物繊維は水溶性1.8g、不溶性2.8gになるという計算である。
つまり、ごぼう、玉ねぎ、にんじん、キャベツをそれぞれみじん切りにして1カップずつ料理に使うと約10.8g(水溶性3.6g 不溶性7.2g)の食物繊維をとれることになる。
単純計算ではこれを三食とれば一日に必要な食物繊維は優に超え、水溶性:不溶性も1:2となり、非常にバランスが良いものとなる。
ほんの一例だが、葉物野菜よりは根菜類の方が食物繊維はよく取れることがわかる。
その他、マグネシウム、オリーブオイル、オリゴ糖、植物性乳酸菌、ビタミンC、グルタミン酸、魚、トリプトファン、スパイスなどが具体的な効能や摂取量などの紹介とともに推奨されている。
また、軽~中等度の便秘の方で、短期間での便秘改善を望む人の場合は1週間で効果が得られる「腸内リセット法」なるものも紹介されている。
ただし、1日目の下剤使用から始まって、どの食材をどのくらい取るか、食事管理の徹底が必要とされるので時間に余裕のある方向けの内容となっている。
本書では食事療法だけでなく、便秘改善のための生活習慣と補助療法も記載されている。
腸マッサージやウォーキングなどは予想の範囲内かもしれないが、「ミント温罨法 (おんあんぽう)」とか、パッセンジャータ、アロマテラピーなど、意外な効能を持つ方法なども紹介されているので、ぜひ参考にしてみてほしい。
そして最後に松生先生は、以上のような食事療法や生活習慣の改善を行ってもなかなか改善しない便秘の方は、是非とも便秘外来を受診されることを勧めておられる。
便秘そのものが健康に多大な影響を与えているのはもちろんだが、その便秘の裏に癌などの重大な疾患が潜んでいる場合もあるからだ。
調べてみると盛岡市内でも「便秘外来」を掲げている消化器内科クリニックはいくつかあるようなので、調べてみてほしい。
ただし、先生は専門外来は掲げていても、裏に重大な病気が潜んでいない場合には下剤を処方して終わりとするクリニックもあるとして注意を促している。
「下剤依存症」をあまり知らない医者もいるというのである。
確かに当院に来られる患者さんにも漫然と下剤が処方されっぱなしのままの人もおられる。
もちろん長く下剤に頼ってこられた方はいきなり中断することはできないが、下剤依存からの脱却を目指すクリニックを探してみてほしい。
是非とも健康な腸づくりのためにご一読をお勧めしたい。
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