おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

死の疑似体験

2019/05/09

古来、日本では「死」は忌むべきものと捉えられてきた。
「忌引き」というものも、穢れを周囲の者へ伝播させないためという意味合いもあったようである。
そんな辛く悲しく、忌むべき「死」を「生きる力」に変えようとする試みがある。
中国では精神的な心の問題を解決するためにセラピーとして擬死体験が行われているという。
まず、最初に遺書を書いてもらい、本当にこれから死ぬような悲しい気持ちになってもらう。
次に棺桶に入る。
棺桶に入ると葬式の時に流れる寂しい音楽が鳴り出す。
5分ほどすると、赤ちゃんの穏やかな鳴き声が聞こえ始める。
そして、セラピストが陽気な音楽とともに死者の棺桶を開き、患者を生き返らせるという手順である。
これを行った多くの人は「私は死から生還した」と言い、今までと異なる価値観で考えるきっかけとなり、新しい人生を歩めるようになるという。
自殺率の高い韓国でも擬死体験が行われている。
最初に行うのは自分の葬式で飾る写真を取ること。
次に薄暗い部屋の中で白い装束を身につけ、家族への遺書をしたためる。
そして蓋を閉じた棺桶の中に10分間横たわり、これまでの人生を振り返りながら、じっくりと自分の死を見つめる。
最後に困難に直面しながらも人生を歩み続ける人たちのドキュメンタリー番組が流れ、主催者が励ましの言葉をかけるそうだ。
講師によると、参加者たちは棺桶から起き上がると気持ちが「不思議なくらいにリフレッシュ」し、抱えている悩みから「解放された」気分になるという。
参加者の90%以上が新しい人生観を得ているそうだ。
日本でも似たようなもので「生前葬」というものがある。
ただし、こちらは生きている間にお世話になった方々へ直接お礼が言えるなど、死生観を問うものというより、現実的な意味合いの方が強いようである。
中には実際に棺桶の中に入るやり方をするところもあるようだが、基本的にはパーティーであるようだ。
やはり式の模倣だけではなく、実際に死者の視線になることが大事なのだろう。
寺社フェス「向源」(宗教や宗派を超えて、神道や仏教などを含めた様々な日本の伝統文化を体験できるイベント)では、「死の体験旅行~死を通して生を見つめる~」というワークショップが行われるという。
これはもともと仏教とは関係なく、欧米のホスピスで終末医療として行われていたワークショップらしい。
この「死の体験旅行」はいくつかの大学でも取り組まれているワークショップで、方法はだいたい共通しているので、関西学院大学で行われている方法を紹介したい。
まずは以下の4領域からそれぞれ大切なもの三つずつ選んで、12枚の紙に書くことから始まる。
〇形のある大切なもの
〇大切な活動
〇大切な人
〇形のない大切なもの
この時、多くの人がふだん何を大切にしていたのか考えていなかったことに気づくという。
それから、あなたは癌に冒され、亡くなっていく過程を疑似体験する。
ある日始まる体調不良。
自分の体の変化に対するかすかな不安。
それでも普通に繰り返される毎日。
そして徐々に悪化していく症状。
病の経過をつづった日記が読みあげられる中で、12枚の紙の中から何をあきらめるのかを決めて、順番にその紙を破っていくのである。
・入院して検査が続くときに3枚。
・手術するときに3枚。
たいていは、形あるものから消えていくという。
さらに、自身の病気ががんであるとわかって3枚破る。
そして、最期を悟ったときに2枚を破る。
本当に大切なものは何だったのか。
何のために生きてきたのか。
手放す過程でこうした問いを自らに突きつけ、その答えを求めて参加者たちは苦しむという。
これが、自分という存在の根底を揺るがす「スピリチュアル・ペイン」、つまり魂の痛みだという。
残った1枚は、多くが「母」や「配偶者」、「子ども」、「愛」、そして「人生の目的としてやりたいこと」なのだとか(ちなみに父親はあまり残らないらしい)。
それを持って目を閉じ、「さようなら」の言葉とともに破る…。
死の疑似体験によって学生は変わっていくという。
当たり前の生活がどれほど大切なものだったのか。
いかに多くの人に支えられてきたか。
死に直面して苦しんでいる人になんと安易な言葉をかけていたか。
そうしたことに気づくというのである。
ワークショップの後に、死を前にして伝えたかったことを書いてもらうそうだ。
多くは、「ここまで育ててくれてありがとう」といった感謝、「天国から応援しているよ」といった残される人への思いやりが書かれるとか。
このワークショップについてもっと知りたい方は、「死生学」を教えていらっしゃる藤井教授のインタビュー記事が下記に掲載されているのでご覧いただきたい。
http://www.asahi.com/edu/university/kougi/TKY200902060188.html
この擬死体験は、おそらくこれまで「死」を意識していなかった人がやるから人生観の転換が得られるのだろう。
今まさに自死を選ぼうとする人間にとってはとんだ茶番に感じるかも知れない。
だが、「逃げ道としての死」を見つめるのではなく、「生きることの意味を問いかける死」を見つめてくれていたら、もしかしたら選択が変わる可能性もあるだろう。
特に思春期の世代などは、いじめなどで深刻な状況に陥る前に、一度経験してみるのもいいかもしれない。
そして、「学校へ行かないこと」も一つの選択肢だと気づいてくれてたら、誰も悲しまずに済むことだろう。
・・・自分も機会があればこのようなワークショップに是非とも参加してみたいものである。

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