おのでら鍼灸経絡治療院

体のこと、あれこれ

クール―病

2017/04/15

クール―病は一頃話題になったクロイツフェルト・ヤコブ病の一種である。
クロイツフェルト・ヤコブ病は、牛で言うところの狂牛病、BSEの人間版であり、脳に異常なタンパク質が蓄積し、脳の神経機能が障害され、中年期以後に発症する痴呆性疾患である。
身体のバランスが取れなくなり、筋肉の不随意運動が起き、果ては寝たきり、無言無動状態になってしまう。
そのクロイツフェルト・ヤコブ病の中で、パプア・ニューギニアのフォア族で発生していたものがクール―病と呼ばれている。
「クール―」とは現地の言葉で「震える」という意味である。
この病気を発症すると、自律神経に異常をきたし、筋肉のコントロールができなくなる。
歩行困難、手足の筋肉の硬直、筋肉の震えなどが止まらなくなるのである。
また、痴呆症状、記憶力の減退、感情の激しい乱れなども現れ、発症後一年程度で死に至るとされている。

 
なぜ、パプア・ニューギニアの特定の部族、フォア族にこの病気が生まれるのだろうか。
それは彼らの習慣に起因する。
彼らは石器時代からつい最近(1960年代ごろ)まで、死者を弔うためにその死体を食する習慣があったという。
葬儀の参列者は肉をバナナの葉でつつみ、焼いて食べたそうだ。
その時、死者の体内に蓄積されていたプリオンと呼ばれる悪性のタンパク質を摂取してしまい発病していたのだ。
脳などの悪性のタンパク質が多く蓄積されている部位を食べるのは女性や子供の役割であるため、女性や子供の発症例が多いという。
発病潜伏期間が長く、中には50年という例もあるため、半世紀たった2004年ごろもまだ患者は年に1~2人発生していた。
2004年当時の記事から引用すると、
「(クール―病の)感染率は高く、ある葬儀に参列した20人のうち、15人死んだ例もある。近親者を続々亡くした人は、死の恐怖におびえていた」
とのこと。

 
ちなみに、人から人に感染するクール―病の潜伏期間は5~50年と見られている。
一方、狂牛病にかかった牛を食することで人にうつった場合の潜伏期間は10~100年と言われる。
動物実験によって異種間の感染は同種間に比べ潜伏期間が倍になることが分かっているからだ。
BSE感染牛を飼料に混ぜ、飼育された牛がまたBSEを発症したが、その牛を介して発症したと考えられる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は2008年現在で英国を中心に世界で208例が報告されている。
まだ数年は発症者が現れる危険性はあるかもしれない。

 
悪性のタンパク質、異常プリオンが病因となる疾患は、以前取り上げた致死性家族性不眠症などもプリオン病の一つに分類されている。
つまり、プリオン病は食を介しての感染だけではなく、原因不明で発症するケースもあるということだ。
症状がアルツハイマー病に似ているためにアルツハイマーと診断されていた患者を病理解剖したところ、クロイツフェルト・ヤコブ病だったという例もあり、異常プリオンに起因している疾患の実数をつかむのはなかなか困難のようだ。

 

 

 

そして、さらに以前読んだ記事が非常に印象的だった。
http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPKBN0OR0YH20150611
異常プリオンが原因となる病気の科学的解明のために、英国やパプア・ニューギニアの科学者グループは、フォア族の研究を進めてきた。
そのグループが英科学誌ネイチャ-に発表したところによると、フォア族ではかつてクール―病が蔓延したが、やがて病気に対する耐性を身につけたという。

 

フォア族が連綿とそのような習慣を続けながら、一族が絶滅することなく生き続けてこられたのはそういった理由があったということである。
グループはこの特定のプリオン耐性遺伝子を突き止め、クロイツフェルト・ヤコブ病すべてに有効であることを発見したという。
上記のように、プリオンは人ではクロイツフェルト・ヤコブ病、牛ではBSEを引き起こす。
プリオンが原因で原因不明の認知症も起きる。
そんな疾患に光明が見えてきたのである。
また、科学者らはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患が進行するプロセスを知る手がかりになると考えているそうだ。

 

 

「文化」とはいえ、人食が普通に行われていた部族があることに当時は衝撃を受けた。
そしてそれが原因で疾患になることも驚きだった。
それが今度は耐性遺伝子を身につけたというのだ。
人間とはなんとすごい存在だろうか。
習慣もすごいけれど、適応力もすごいし、それを見つけるというのもすごい。
いろいろな意味で衝撃的なクール―病である。

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